2002/04/22
携帯電話のベルが鳴った。かけてきたのはコウジ(17)だった。広島市近郊の暴走族のリーダーだ。元気のない口調で切り出した。「この間の話ですが、僕、だめになりました」。申し込んでいた取材を、断ってきた。 消え入るような声でコウジは続けた。「逮捕状、出たみたいなんです」。留守宅への警察官の突然の訪問、数カ月前の大規模な集団暴走…。コウジはいくつか「根拠」を挙げた。 ほどなくコウジの電話のキャッチホン機能が、別の電話を捕らえた。「ちょっとすいません」。そう言ったまま電話は切れた。何度か連絡を試みたが、その度に別の電話に割り込まれたり、不通になったりした。 三日後の雨降りの深夜。やっと連絡が取れたコウジに会った。人けの無い駐車場。暴走族の仲間たちも一緒だった。自動販売機の明かりが照らすコウジの青白い表情に、いら立ちと不安が浮かんでいた。 数日間、友人の家を転々としているという。「逮捕状」の真偽は分らないまま、それとなく出頭を勧めた。「近々ですね。でも遊び足りんのです。肉とか食っときたいし、たばこも吸っとかないと…。入ったら吸えんな、くそ」。投げ捨てたたばこの火が、雨脚に消えた。 突然、コウジは暗がりに走り去った。地区を巡回するパトカーの赤色灯が目に入ったからだ。 コウジには半年ほど前から何度か会った。約束の時間に十分ほど遅れる時も、申し訳なさそうに連絡をしてきた。一緒にスパゲティを食べた。質問を聞く時は、フォークの手を止め、目を合わせた。はにかんだような笑顔を絶やさず、敬語を使いこなした。 工事現場で交通整理の仕事をしていた。旗の制止に従わないドライバーに「腹が立つ」と言った。「君らに無視される警察の気持ちが分かるのでは」。水を向けると「そうっすね」と笑った。 幼いころからバイクの絵を描いた。暴走族は「あこがれ」だった。中学校では午前の授業を休みがち。高校も入学後すぐにやめた。仕事の都合で両親は別居。家庭のことは「オヤジとは口をきかないです」と言ったきり、多くを話さなかった。 ある日の別れ際、「仲間に集合をかけている」と言う。「なんのため」との質問に「セットウ(バイク盗)っす」。あっけらかんとした口調に力が抜けた。 雨の夜に会って数日後、コウジの逮捕記事が紙面の片隅に出た。柔らかな表情と礼儀正しさ、まっとうな正義感。それとは対照的な、「族のアタマ」を演じる時の警戒心と投げやりな態度、罪の意識の無さ。どれもコウジの中に同居していた。その理由を十分に明かさないまま、コウジは警察に赴いた。少年院を出て一年もたっていなかった。
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