2002/05/24
広島市内の暴走族の少女(17)が誇らしげに言う。「広島言うたら暴走族じゃん。うちらがおらんようになったら寂しいよ」。思い込みの根拠には、警官隊と市街地で衝突し、広島の暴走族の悪質さを全国に知らしめた三年前の「えびす講騒動」がある。 もう一つある。広島を舞台にした暴走族の漫画「BAD BOYS(バッドボーイズ)」だ。一九八八年から八年間、雑誌で連載し、単行本二十二巻の売り上げは、全国で二千万冊に上る。 激しい暴力描写の中に友情、恋愛…。登場人物は広島弁で紙上を暴れ回る。「主人公みたいな人と付き合いたい」。少女が暴走族に入った動機である。 安佐北区の暴走族の少年(17)の自室には、単行本が全巻そろえてあった。「読むのは(暴走族の)基本でしょ」 作者は田中宏さん(32)。少年時代に見聞きした話を基に、古里の広島県府中町で執筆を続ける。作品が少年少女たちの「バイブル」になっている現状などについて、田中さんはファクスで回答してくれた。 「実際の暴走族には漫画の中のような美しい友情はなく、殺伐としている。もっと友だちとの分厚い絆(きずな)をつくる時間を過ごしてほしい」。田中さんは読まれ方と裏腹な思いを抱く。 さらに「若者が自己表現する手段が増えるなか、暴走族は既に『かっこ悪い』とさえ同世代から見られている」とも。「だから居場所を失い、無理やりアリスガーデンなどで集会したり、ムキになって警察とやり合ったり…」。広島の暴走族の現状にクールな目を向ける。 戦後の広島の暴力団抗争を描いた映画「仁義なき戦い」は七三年に公開された。シリーズはヒットを重ね、登場人物のあくの強い広島弁は、良くも悪くも全国に広まった。 映画のイメージを広島の暴走族は「逆輸入」していないか―。そんな見方に、博報堂中国支社マーケティング部長の北野尚人さん(45)は「彼らは作品を直接知らない世代だから」と否定的だ。ただ「周りから吹き込まれるイメージ上の『ワルの系譜』に、展望を持てない若者が乗っかりやすい面はある」とみる。 北野さんには、他人にぶつかっても謝らないとか、車が互いに道を譲らないとか、小さなルール違反がこの街にあふれているのも気になる。「貴重な平和都市のイメージを損う」と心配になる。「大きな平和ばかりでなく、人に優しくする、という小さな平和をもっと心掛ければ、若者も変わるのでは」 「若い時は少々やんちゃでええ。わしも若いころは…」。街には「元○○自慢」がはびこり、一部メディアがもてはやす。風潮を真に受けてか、安佐北区の暴走族の少年(16)は「ワルをしとった方が、社会で役に立つ」と胸を張った。 彼らに対し、田中さんはメッセージをつづる。 「『元暴走族で現在著名人』という人になりたいけえ今暴走族やっとる―。そんな手紙をもらったことがあるけど、今の暴走族はそんな風になれん。世の中は生きてきた道、取り巻く時代を合わせて、人を見るんじゃ。二〇〇二年の若者が輝くカタチはきっとほかにあると思うで!」
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