行き交う電車を見つめてきた十日市交差点の「鳥の巣」

 広島市中区榎町の十日市交差点で異彩を放っていた昭和レトロなタワーが9月、惜しまれつつ姿を消す。広島電鉄の社員には「鳥の巣」の愛称で呼ばれ、住民にも交差点のシンボルとして親しまれてきた「操車塔」。係員は塔の上で、3方向から来る路面電車を見張り、手動でポイントを切り替えていた。設置から約70年が過ぎて、老朽化が進んだため解体されることになった。

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 同交差点は繁華街に近く、自動車や路線バスなど多くの車両が往来する。路面電車の分岐点でもあり、JR広島駅と宮島口(廿日市市)、JR横川駅と江波(中区)を結ぶ路線など5系統が行き交う。操車塔は交差点の南西の角に立つ。高さ6・5メートル。植物の茎のように伸びる4本の柱の上に、缶詰状の円い小屋がでんと座る。落雷で機器を点検する際などを除き、普段は無人でカーテンが閉め切られ、塔の正体を知らない住民も多い。

【動画】これが「鳥の巣」の内部

 ◆係員常駐は3年余

 広電によると、正式名称は「十日市信号所」。1952年2月に使用を始め、55年11月にポイント制御を自動化するまでの3年余り、信号扱いの係員が交代で勤務していた。はしごで塔に上ると、中は3畳ほどの広さ。係員は電車の行き先に応じて線路のポイントを切り替えるため、手動でてこ(スイッチ)を操作していた。

 十日市町でコーヒー店を経営する面出寛司さん(73)は小学生の頃、なじみの係員に誘われて塔に上がったことがある。「中には2、3人いて、双眼鏡で電車が近づいてくるのを確認していた。360度ぐるっと見渡せて、展望台のようだった」と懐かしむ。

 55年の無人化後も、ポイント切り替えに関わる機器が塔内に残ったため、塔は解体を免れてきた。「残してほしい」との声も広電に届いていたが、「現行の耐震基準を満たさず、地震で倒れても困る」(上田賢治・電気課長)として、機器を更新するタイミングで塔を取り壊す。

 解体工事は9月6日に始まる。近くで呉服店を営む松井みどりさん(72)は「子ども心に『宇宙基地みたい』と思った不思議な建物。生活の風景の一部だったから、なくなるとさみしい」と惜しむ。

 ◆なぜ「鳥の巣」と呼ばれた?