江戸期の大名には「預治(よち)思想」が浸透していたという説がある。領民は天からの預かり物。飢饉(ききん)には藩庫を傾けて金子(きんす)や米を施し、務めを果たした。歴史学者藤田達生(たつお)さんの近著「災害とたたかう大名たち」にある▲ところが災害が多発した天明年間を境に、預治思想を裏打ちした幕府の下賜金は先細る。天明には浅間山の噴火が広く冷害をもたらし、一揆や打ち壊しを招いた。藩は幕府と距離を置くようになり、やがて薩長などの雄藩が徳川支配に終止符を打つ▲先週の南太平洋トンガの噴火は詳細がいまだ不明だ。海底火山の海域の陸地が消えたと報じられ、国の行く末さえ気になる▲今回の噴火は30年ほど前のフィリピン・ピナトゥボ山の噴火に迫る規模だという。この時は大量の火山ガスによって北半球の平均気温が0・5度下がった。冷夏と米の不作を読者はご記憶だろう。異常気象とコロナが招いた世界的な食糧高騰に噴火が追い打ちをかけるかもしれず▲藤田さんの著書に「民風」の二文字がある。あまねく民を救うすべがないと、民風つまり領内の空気は殺伐としてくる。まずは小さな島国の民の消息を知る。衛星写真だけでは分からないことが多すぎる。