「現地現物の考えで多くの発見があった」

 バレーボールを筆頭に、競技用ボールなどを製造しているミカサ(広島市安佐北区)。前社長の佐伯武俊さん(82)=安佐南区=は半世紀にわたって同社に勤め、誰もが楽しめるボール開発を進めた。海外工場への技術移管、長年の課題だった本社の移転も推進。技術者として経営者として、世界で親しまれるボールメーカーをけん引した。

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 砂糖の甘さは、なめてみないと分からん。現地に行き、現物に触れることで目と鼻、口、耳、脳が働く。通っていた修道中・高にはそういう気風があった。当時はテスト、テストという感じじゃなく課外授業が多かった。何事も経験しないと分からないもんだからね。そういう考え方で人生、多くの発見があった。

 2021年の東京五輪では、バレーボール、ビーチバレー、水球の3競技で公式球に採用された。同社のボールが五輪で使われるのは14大会を数える

 五輪を含め、いろんな試合を見てきた。大切なのは選手が主役、ボールは脇役という考え方なんです。選手たちは人間業とは思えんほどに練習を積んでいる。その姿を見て、選手の期待に応え、選手の技術を最大限引き出せるボールの開発を目指してきた。

 ゴムは、えたいの知れない生き物のような存在だ。時間と共に変化し、気温や湿度でその度合いも違ってくる。そういう意味では料理に似た部分もあるだろうか。鮮度によって変わるため、同じ物を作るのは至難の業。ましてや海外の工場となると、気候風土の違いもあって大変なことだった。

 思い起こせば一瞬一瞬、何か少しでも違っていれば今の自分はなかった。広島に原爆が落ちたときも、ちょっと違う場所にいたらどうなっていたか分からない。生きてきた中で偶然の出会いや経験が何度もあり、その都度助けられてきた。経験したことをノートに長く書きためてきたが、読み返すと、そんな出来事にあふれていると思わされる。会社の歴史もそうだけど「人生は小説よりも奇なり」。そんな気がするね。(この連載は東京支社・口元惇矢が担当します)