坂道の途中に立つ空き家。ただでもらえると聞いて驚いた
大谷悠さん

 急斜面に古い木造の民家が立ち並ぶ、迷路のような路地。石垣の上で寝転んでいる猫を横目に、エッチラオッチラ坂を上っていく。振り返ると、アーケードの向こうにキラキラときらめく瀬戸内海。渡船がゆっくりと通り過ぎる。「ああ、なんてぜいたくなまちなんだろう!」。これが尾道の第一印象だった。

 当時ドイツで空き家再生の研究と活動をしていた私。「尾道には空き家がたくさんあるからぜひ行ったほうがいい」と知人に勧められ、初めて訪れたのは2015年春だった。参加したイベントや飲み屋で友達の輪が広がり、気付けば年に何度もドイツと往復するように。すっかり尾道のまちと人に心を奪われてしまった。

 10年近く続けてきたドイツでの活動が一区切りするタイミングで、オーストリア人の妻も日本で生活したいと乗り気になってくれていた。これは何かの運命だろうと、友人のつてで家を探し始めた。

 事態が急転したのが18年末。「家見つかったよ! 次いつ尾道にくる?」。商店街のそばでゲストハウス兼交流スペース「Social Kitchen(ソーシャル・キッチン)」を営む、村上博郁さんからメッセージをもらった。善は急げと尾道へ向かった。

 お会いした大家さんの話では、空き家になったため維持管理が大変で、もらってくれる人を探していたとのこと。「山手」と呼ばれる千光寺山の南側斜面地で、飲み屋街まで15分、駅まで10分、海岸と商店街まで5分の好立地だ。母屋と離れ計3棟で、家具も仏壇以外は全て譲るという。

 待て待て。そんないい話があるものか。海と山と島に囲まれ、ローカルな商店街があり、近所に超イケてる村上さん一家が住んでいる。猫に癒やされ、飲み屋も楽しいまちに、家を3棟、家具付きでもらえるんですか?

 私の心はすぐに決まった。しかしこの日から、想像を絶するほど困難な空き家との闘いが幕を開けるのだった。(まちづくり活動家=尾道市)

 おおたに・ゆう 1984年東京都生まれ。東京大大学院博士課程修了。2010年にドイツに渡り、東部ライプチヒでまちづくりを研究しながら、移民や若者の交流拠点を運営した。19年に尾道市に移住した。4月から、福山市立大専任講師に着任予定。

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 悪戦苦闘の空き家改修や、坂のまち・尾道での暮らしぶりを、大谷悠さん(37)がつづります。

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