左から広島電鉄の高速バス・備北交通の高速バス・JR芸備線の気動車

 JR西日本と広島県内のバス会社がタッグを組んだ異色の往復切符が、想定を上回る売れ行きを見せている。広島市と三次市の間で、JR芸備線と高速バスに1回ずつ乗る「バス&レールどっちも割きっぷ」。競合する区間で乗客を分け合うようなコラボが、なぜ実現したのか。関係者を直撃すると、いくつかのキーワードが浮かんできた。

 11月13日発売の「どっちも割」は、高速バスを運行する広島電鉄(広島市中区)と備北交通(庄原市)、JR西日本、三次市の共同企画。通常は広島駅―三次駅の往復がJRで2680円、高速バスで3060円のところ、この切符だとほぼ半額の1500円。JRと高速バスの片道券が1枚ずつ付き、行きと帰りで使い分けを求める珍しいルールも注目を集める。

 驚いたのは利用者だけではない。JR西日本広島支社の広報担当者は「こんな切符、記憶にない」。広電の椋田昌夫社長も「社内でも、最初は(収益の配分を巡り)損じゃ得じゃという議論があった」と明かす。

 この広島駅―三次駅間は、JRが約1時間20分~2時間、高速バスが1時間40分前後と、所要時間ではほぼ互角。しかし、便数ではJR16・5往復に対し、バスが34・5往復(いずれも平日)と圧倒する。新型コロナウイルス禍で乗客が減る以前は、バス会社の「ドル箱」路線だった。なぜ、そんな区間でライバルとタッグを組んだのか。まずは備北交通の本社に、山根英徳社長を訪ねた。

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 「長い歴史の中で、レールの切符を売るのは初めてです」。山根社長は笑みを浮かべながら、JRとの関係が深まった経緯を語り始めた。きっかけの一つは、意外にも、三次市と島根県江津市を結んでいたJR三江線の廃止(2018年)だという。

 備北交通は当時、運転手不足のため、三江線沿いに島根県境を越えるバス路線からの撤退を考えていた。だが、JRからの要請で三江線代替バスとして運行を続けた。いわばJRに「貸し」をつくった格好。しばらくして、悲願だった同社高速バスの広島駅北口(新幹線口)への乗り入れが認められた。山根社長は「JRに足を向けて寝られんようになった」と語る。

 18年7月の西日本豪雨と20年春からのコロナ禍も、「どっちも割」発売に至るきっかけとなった。

 コロナ禍で広島県に緊急事態宣言が出ていた20年5月、広島―三次間の高速バスの乗客数は前年比5、6%という、どん底の状態だった。備北交通は三次市に支援を要請したが、当初は明快な返事がなかったという。

 市が即答を避けたのには理由があった。

 高速バスを支援したい考えの一方で、並行するJR芸備線の利用低迷にも頭を悩ませていたからだ。同線は西日本豪雨で鉄橋が流失し、1年3カ月にわたって不通に。19年10月に復旧した後も、高速バスやマイカーへの転移により、乗客数が災害前の水準に戻っていなかった。