市販薬依存を克服したアライ。ようやく外出できるようになった(広島市中区)

 風邪薬など市販薬を大量に飲むことで気分を楽にさせ、悩みから逃避する「オーバードーズ」。いま、若い世代を中心に増えています。厚生労働省の研究班が昨年、薬物依存の10代が主に使った薬を調べたところ、市販薬の割合が5割を超えました。若者はなぜ、市販薬を乱用するのでしょう。広島で暮らす28歳の女性、アライ(仮称・敬称略)は、3年にわたる依存から抜け出したばかり。「もう自分を失いたくない」と語ります。

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 きょうも目覚めは最悪だった。背骨が固まっている感じがして動けない。頭の中には何か黒いドロドロしたものがたまっているよう。何も考えられない。でも、バイトに行かないと…。つい、せき止め薬の瓶に手が伸びる。真っ白な錠剤から20錠ほど流し出して思った。ちょっと多過ぎるかも。まあ、いい。ボリボリとかんで飲み込んだ。

 これが、ほんの1年前のアライの日常だった。薬を飲んで30分もすれば「元気が出てくる気がした」。帰宅後も薬がないと気がめいり、長い夜をやり過ごせなかったという。数時間ごとに約20錠ずつ飲むと、頭が「フワフワ」してくる。目の前の部屋の壁がグニャグニャと動きだす。「幻覚を見ていると、つらい現実が遠くにある気になれた。また最悪な朝が来るのに、やめられなかった」

 始まりは25歳の頃。アライは精神的に不安定な母親から離れ、県外で介護の仕事をしていた。自らもうつ病の治療中。「人に認められないと」と焦るのに、いざ動こうとするとしんどくてたまらない。「市販薬でハイになれるよ」。友人の一言で飲み始めたという。

 薬を飲むと、憂鬱(ゆううつ)な気分は不思議と消えた。だが、効果が切れると、すさまじい倦怠(けんたい)感に襲われる。薬を飲む量も頻度もみるみる増えた。

 「薬をやめたい」。病院を訪ねたのは半年ほど前だ。もう体が悲鳴を上げていた。息苦しく、吐き気がする。物忘れもひどくなった。友達の話についていけず、情けなかった。「普通に生活しようと飲み始めた薬のせいで、普通に息をすることもできていない。何とかしなくちゃ、と」

 本気で減薬しようと、広島で1人暮らしを始めた。その治療は想像以上につらかったという。離脱症状で体が激しく震える。自分が惨めで、絶望感が押し寄せる。また薬を欲してしまう自分と闘いながら、過眠と不眠を繰り返した。

 ようやく落ち着いたのはここ最近だ。時折、まだ手が震えるが、息苦しさは消え、気軽に外出もできる。アライは今、「普通に暮らせる喜び」をかみしめている。「何がつらいのかも分からないまま、つらさを薬でごまかし、『普通』を繕っていた」。自らをそう振り返り、強い思いを口にした。「薬に逃げず、自分と向き合いながら生きていきたい」(小林旦地)

 ▽「生きづらさ紛らわすケース目立つ」専門家指摘

 厚生労働省研究班の2020年の調査では、薬物依存の10代が主に使った薬の種類は「市販薬」の割合が最も多く、56.4%に上った。14年に48.0%を占めた「危険ドラッグ」に代わり、主流になっている。

 国立精神・神経医療研究センター薬物依存研究部長の松本俊彦さんによると、市販薬の依存者は他の薬物の依存者に比べ、女性の割合が多い。非行・犯罪歴を持つ人も少ないという。松本さんは「『良い子』を演じながらも『生きづらさ』を感じている人が、苦痛を紛らわせるために薬を飲んでいるケースが目立つ」と指摘する。

 松本さんは、薬が簡単に手に入る現状も問題視。処方箋がなくてもドラッグストアやネット通販で手軽に買える薬が多いことが、若者の依存を増やす一因になっているとみる。

 28歳の女性の体験談や専門家によるオーバードーズの解説の詳しい記事は、投稿サイトnote「中国新聞U35」で