トルコ南東部にあるクルド人の都ともいわれる街・ディヤルバクルで、郷土料理を楽しめる店を訪れた。食後にムッラと呼ばれる濃厚なコーヒーをサービスで飲ませてもらった。サービスをするアブドゥルメジットさん(28)から興味深い話をいろいろ聞けた。

 まず目にとまったのが彼の服装である。オスマン時代から伝わるもので、はいているズボンは、股下がゆったりとしたもんぺに似たシャルヴァル。田畑作業でも動きやすい作りになっている。帽子は八角形のカスケット。愛国心、寛大さ、勤勉さ、おもてなしの心、謙遜、誠実、男らしさ、勇敢さの八つの意味が込められているそうだ。

 さて話をムッラに戻そう。このコーヒーは、ディヤルバクルを含めアラビア諸国に近い隣県ウルファやマルディンでも飲まれている。アラビア式コーヒーと呼んでもいいかもしれない。トルココーヒー同様、ひいた豆に水を加えて煮だし、沈殿した上澄みを作るところまでは同じ。ムッラは冷ましたものを布で濾し、翌日、もう一度煮詰める。これを数日繰り返すことで、コーヒー自体の発酵がはじまり、かつ濃厚な味へ変わるそうだ。

 仕上げにはスパイスのカクレ(カルダモン)を加え香りを足す。これには、鎮静作用と消化を促進させる働きがあるので、食後に振る舞われるのが一般的だ。水差しに似た入れ物に入っており、取っ手のないちょこに、底1センチほど注ぐ。それをぐっと飲む。

 割礼や結婚などの祝いの席には必ずムッラがある。祭事では、みんなで喜びや幸せを倍増させ、葬式では、親族の悲しみをみんなで分かち合うという意味がある。それを一つのカップで回し飲みしながら、家族のように思いを共有する。

 ムッラは、オスマン時代誰もが飲める飲み物ではなかった。貴重な食材というだけでなく、いることから始めて提供するまでに3日は必要だったからだ。大事なお客に、これでおもてなしをしていたからだろう、「一杯のコーヒーで40年、いつまでもそのことを忘れない」という表現もあるほどだ。

 アブドゥルメジットさんは現在、レストランでお客さんにムッラを提供しながら、その文化を伝承している。若いころ、仕事で村の割礼式で初めて飲んだムッラを今でも時々思い出すそうで、「あの時は、この仕事に携わることになるとは夢にも思わなかったけどね」と笑った。(岡崎伸也=コンヤ在住)