古里を「ハンザケ村」と呼び、随筆につづった人物がいる。明治初期、今の島根県邑南町に生まれた文筆家、小笠原白也(はくや)である。この地域に特徴的な呼び名ハンザケは、国の特別天然記念物オオサンショウウオのこと▲「鈍重」「剛腹(ごうふく)」なこの生き物は郷里の川に数多く生息しているが、村民にもまた「ハンザケ性」があると小笠原は言う。すなわち、つつましく暮らし、忍耐強く自分を貫く性分は同じだと。郷土愛に満ちたまなざし▲20年前の夏、瑞穂ハンザケ自然館の催し「夜の川探検」に参加した。夜行性であるハンザケの生態を見ようと、ヘッドランプにゴム長という姿で地区を流れる川の中を歩いた。何と10匹以上と遭遇。産卵期を控えて、場所を探す群れだった▲おととい広島県広島市中心部に現れた1匹はどうしたのだろう。よく晴れて明るい午後、原爆ドーム近くの元安川で目撃された。山あいの清流にいるはずなのに海に近い下流域に姿を見せるとは驚いた。専門家も首をひねる▲陽気に誘われ、花見に繰り出したのか。体が大きくなり、こもっている岩屋を出られなくなる前に。オオサンショウウオは楽しんだ―はず。すみかに無事戻っているといいのだが。