広島をウェルビーイングな街にするためにどうすればいいのか、語り合う石川さん、保井さん、田村さん(左から)

 中国新聞は5月5日、創刊130周年を迎えました。 節目の年を記念して、人々が自分の人生や生活に幸福を感じ、満足している状態を示す 「ウェルビーイング」 に着目した企画 「のび~る!!ひろしま」 を展開します。 企画のキックオフでは、広島をウェルビーイングな地域にするために、医学博士で公益財団法人Well-being for Planet Earth代表理事の石川善樹さんと学術博士で叡啓大ソーシャルシステムデザイン学部長・教授の保井俊之さん、中国放送アナウンサーの田村友里さんが語り合いました。

 ―広島の人々のウェルビーイング度は。

 保井 都道府県別の幸福度調査は複数のシンクタンクが実施しています。いずれの調査でも、広島は真ん中あたりの20番台でそれほど高くないものの、特徴があります。社会や地域における人々の結び付きを示す「ソーシャル・キャピタル」の調査(2008年)では、広島は総合12位です。また、子育て世帯の移住幸福度ランキング(16年)で広島は7位。地域の中ではつながり上手なんです。

古里の魅力探し 幸せの一歩

中国放送アナウンサー 田村友里さん

 

 田村 私自身はウェルビーイング100%です。アナウンサーになる夢がかない、仕事がとても楽しいです。ですけど、同世代の友だちは、「古里としては最高だけど、広島では働きたくない」と言います。県外に出てしまったら、就職などで帰ってこないんです。今はインターネットでどことでもつながれる時代なので、若者の流出を防いで他県からの移住をさらに促進してほしいですね。

 石川 若年女性のウェルビーイングを特に重要視するべきです。日本創成会議が14年に公表したリポートでは、896の自治体を「消滅可能性都市」と名付けて話題になりました。出産世代の20、30代女性が将来的に半減すると試算されたからです。

 ―広島にウェルビーイングのポテンシャルはありますか。

 保井 「自利利他円満」という仏教用語があります。自分が幸福でなければ他人を幸せにできず、世の中は円満になりません。安芸門徒をはじめ、そういった共生を重んじる人が多い広島は、伝統的にウェルビーイングの潜在力がある地域です。また、「おいしい」も幸せの一つです。瀬戸内海や県北はおいしい食材だらけ。豊かな自然もウェルビーイングと深い相関関係があります。広島市内から自転車で30分ほど走れば、海も山もある。幸せの要素は豊富にあります。

自然も食も充実 豊かな地域

学術博士、叡啓大ソーシャルシステムデザイン学部長・教授 保井俊之さん

 

 田村 私は川辺でバーベキューを楽しんでいます。空も空気もきれいで、そういう広島が大好き。一方で、県外の人には広島は豪雨などの災害が多い県だというイメージがあるみたいです。ハード面だけでなく、地域の絆を強くしたり、快適な避難所を設営したりといった災害に強い地域づくりも、住民のウェルビーイングにつながりませんか。

 石川 災害が多い地域はつらいことも多いですが、物事をどう捉えるかです。被爆や多くの災害を経験してきたからこそ立ち上がる力が身に付き、結果的に広島の底力になっているのではないでしょうか。

 保井 心のストレス耐性を意味する「レジリエンス」の高さは、広島の人たちの伝統だと感じます。広島は島と山が多く、土地が狭いので江戸時代には開墾と出稼ぎが盛んになり、明治時代からは海外移民も多く出ました。慣れない土地で苦労した経験が、レジリエンスにつながっています。心が打たれ強いと主観的ウェルビーイングは高いといわれ、そういった人たちは創造性が豊か。広島発祥のイノベーティブな企業が多いのは、根底に心の耐性があるからだと思います。

人に興味抱き関係深めよう

医学博士、公益財団法人Well-being for Planet Earth代表理事 石川善樹さん

 

 ―広島のウェルビーイングを高めるためのヒントを教えてください。

 石川 田村さんが自分をウェルビーイングが高いと思っている大きな要因に、「人が好き」というのもあるのでは。私たちは普段、他人が「何をしているか」のコトに焦点を当てていて、人をよく知らないことが多いです。ウェルビーイングの本質は人に興味を持ち、人との関係性を築くことです。

 田村 そうですね。モノやコトよりも人と触れ合うことが好きです。ロケなどで取材した人を、すてきだなと思います。先日も、取材で出会った三原市漁協の方が災害時でもおいしく食べられるようにと、特産タコの缶詰の製造・販売に乗り出していて。熱意を持って地域を活性化しようとしている方に会うと、元気になりますね。

三原のロケでタコに触れる田村さん

 保井 人との関係性だけでなく、自然との対話も大切ですよ。私は森や浜辺などに出掛けて、自然の中で一人の時間を楽しむこともあるし、円座になって仲間と話をすることもあります。ウェルビーイングになる方法の一つに、自己実現があります。自然と対話すると、内省して進みたい方向に自分を向けていく力が身に付くような気がします。

  

 田村 私も2時間ぐらい浜辺で海を見て過ごすときがあります。人に出会って仲良くなり、自然とも対話しているから、私はウェルビーイングなんですね。

 石川 人や自然と向き合う時に、首尾一貫していなくてもいいと思います。自宅での自分、職場での自分―と、それぞれの場所で違っていい。心地よい自分であればよくて、無理しないことが大切ですね。

 保井 自分の中の多様な自分を大切にして、一つの立場に縛られないことがウェルビーイングになるポイントでもありますね。家や職場以外のサードプレイスをつくることもいいですね。

 石川 新聞がなかった江戸時代には、「世間師(せけんし)」という人がいました。村から村へと渡り歩いて、「あそこに面白い人がいるよ」などと世間話をしていたそうです。世間師によって多様な生き方や暮らし方が人々の間に広まり、村の人たちも他者を受け入れやすくなっていったのだろうと思います。

 田村 そうですね。広島で頑張っている人を積極的に発信していきたいなと改めて思いました。まずは、人や自然など広島の魅力を探して好きになることが、第一歩ですね。

 ―ありがとうございました。

 

<プロフィル>

 いしかわ・よしき 1981年生まれ。広島市出身。東京大医学部を卒業後、ハーバード大公衆衛生大学院修了。 2018年に 「公益財団法人Well-being for Planet Earth」 を立ち上げ、代表理事に。著書に 「フルライフ」(20年)など。

 やすい・としゆき 1962年生まれ。大阪府高槻市出身。東京大教養学部を卒業後、85年に大蔵省(現財務省)に入省。国際機関や在外公館などに勤務した後、地域経済活性化支援機構常務取締役などを歴任。2021年から現職。

 たむら・ゆり 1996年生まれ。呉市出身。 明治大政治経済学部を卒業後、2019年中国放送に入社。現在、テレビでは情報番組「イマナマ!」の木曜コーナー「花よりガッツ」 リポーターやTBSの朝番組「THE TIME,」の中継などを担当。

 

より良い広島を皆さまと創る

広島県知事 湯𥔎英彦

 

 県民の皆さまが、将来にわたって広島に生まれ、育ち、住み、働いて良かったと心から思える広島県を実現していくためには、さまざまな分野において、人々が感じる喜びの度合いを高め、幸せの実感を積み重ねていくことが重要です。そのためには、まず私たちは、先人たちが築き上げてきた広島が誇る素晴らしい資産を再認識し、確かに素晴らしいと実感することが必要ではないでしょうか。

 広島はチャレンジ精神が脈々と受け継がれ、産業やスポーツ・文化等において活気にあふれています。海・山の多彩で美味しい食資産に恵まれています。快適な都市と豊かな自然が近接した暮らしができます。この他にも多様で豊富な素晴らしい資産があります。

 そして、こうした元気、美味しい、暮らしやすい広島を、さらに磨き、発信していくことで、県民の皆さまの誇りがさらに高まり、県外の人々に自慢し、国内外から高く評価されることができれば、幸せの実感の高まりにもつながっていくものと考えています。

 広島県としても、全ての分野において、多様な主体とともに、元気、美味しい、暮らしやすい広島を磨き、発信する取り組みを推進してまいります。私たちみんなでより良い未来の広島を創っていきましょう。

ウェルビーイングとは

 Well-being(ウェルビーイング)とは、「幸福」のことで、心身と社会的な健康を意味する概念。国内総生産(GDP)や健康寿命の長さ、教育や医療を受けられる環境などを基準とした「客観的ウェルビーイング」と、個人が肉体的、社会的、精神的にどう感じているかで判断する「主観的ウェルビーイング」がある。国民の主観的ウェルビーイングが低下すると、政治的・社会的な混乱があるといわれ、企業でも生産性が低下したり、離職率が上がったりして経営に悪影響が出る。国連が調査した最新の世界幸福度ランキングで日本は56位。

 

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