「バイオミメティクス(生物模倣)」という言葉を聞いたことがありますか。生物に学び、生物の特徴をまねて新しいものを作り出す科学技術のことです。
生物をまねる考え方は古くからありました。今から500年以上前に、レオナルド・ダビンチは、鳥の飛び方を観察して飛行機の設計図を描きました。約200年前のイギリスでは、フナクイムシが木造船に穴を開ける様子をまねて、トンネルを安全に掘り進める「シールド工法」という技術が開発されました。私たちの生活には、生物の形や動きからヒントを得て生まれた技術がすでにたくさん使われています。
そして現在も、さまざまな分野でバイオミメティクスの研究が進んでいます。水中をすいすいと泳ぐサメ。少ない力で速く進むことができるのはなぜでしょうか。
その秘密は、サメ肌と呼ばれるザラザラした皮膚にありました。サメの皮膚表面には、頭から尾に向かって目に見えないほど細かいギザギザの溝があります。この溝が、皮膚の近くで渦巻く水の流れ(乱流)をうまく整えてくれます。そして、水をすっと後ろへ受け流すことでスムーズに前に進むことができるのです。

サメ肌のつくりを応用して、生地にギザギザの溝を付けた競泳用水着が作られました。2000年のシドニー五輪前後には、この水着を着た選手たちが好記録を連発したことで話題になりました。
サメ肌の構造は、飛行機の技術改良にも生かされています。空気の流れを整える溝を機体表面に取り付けることで、空気抵抗を減らす研究が進んでいます。飛行機が空気中を速く移動できるようになれば、燃料が節約でき、排出される二酸化炭素の量が少なくなります。私たちが直面している環境問題の改善にもつながります。
みなさんの身の回りにいる生物の姿や動きを観察してみてください。もしかしたら、未来の暮らしを変える、思いもよらないような科学技術が隠されているかもしれません。
(5-Daysこども文化科学館学芸員・小出美由紀)
※2021年9月ちゅーピー子ども新聞掲載記事より