日本との定期首脳協議に合わせて来日した欧州連合(EU)のミシェル大統領がきのう、広島市中区の平和記念公園を訪れた。ウクライナに侵攻したロシアによる核兵器使用のリスクが懸念される中、EUトップが被爆地を訪問した意義は大きい。

 原爆資料館を見学後、核兵器の非人道性に言及した上で「この場所と長崎で起きた苦しみは今も続いている。大量破壊兵器の廃絶は急務だ」と述べた。さらに「この歴史に触れ、理解し、世界の平和と安全保障のために正しい判断ができるよう願う」と被爆地訪問を世界の政治指導者に呼びかけた。

 ミシェル氏が示した核廃絶への決意は、世界から重みを持って受け止められるはずだ。同時に、日本政府が検討し、有力視されている来年の先進7カ国首脳会議(G7サミット)の広島開催へ弾みとなるだろう。

 EU大統領としては2019年のトゥスク氏以来2人目の広島訪問である。世界がウクライナ侵攻に揺さぶられるいま、今回の訪問の重みは比べものになるまい。ミシェル氏は被爆地で平和のメッセージを出す重要性を感じ、訪問を決めたという。岸田文雄首相の地元であることも後押しになった。

 ミシェル氏はロシアを「許し難い」と強く非難した。無差別殺りくを繰り返し、核使用をちらつかせて脅す蛮行は到底許されない。ミサイル発射を繰り返す北朝鮮とともに、「世界の安全保障の脅威だ」と批判した。

 おとといにはロシアと国境を接するフィンランドが中立政策を転換し北大西洋条約機構(NATO)加盟申請を表明した。スウェーデンも続く見通しだ。米中対立を含め世界の安全保障体制は転換期を迎えている。

 こうした中で「核兵器がないと自国の安全は守れない」という短絡的な考えが国際社会に広がった。わが国の元首相からも米国の核兵器を共同運用する「核共有」政策を議論するべきだとの主張が飛び出した。耳を疑う発言で、看過できない。

 核兵器はひとたび使われれば人類の自滅につながりかねない。いかに危険な発想かは、原爆がもたらした死や痛み、苦しみを知れば分かるはずだ。「人間ができる最悪のことを示している」とミシェル氏は語った。

 核兵器禁止条約を発効に導いた国際的な世論に、逆風が吹き付けている。ウクライナ侵攻前には、欧州の市民社会に広がった反核意識を反映し、NATO加盟国の間に条約に肯定的な政策が出ていた。

 ミシェル氏がかつて首相を務めたベルギーでは、2010月に発足した連立政権が「条約が多国間の核軍縮に新たな弾みをつけられるか検討する」と表明。ドイツも6月にある第1回締約国会議にオブザーバー参加する意向を示した。こうした動きを埋もれさせてはなるまい。

 これから締約国会議、核拡散防止条約(NPT)再検討会議と重要な国際会議が続く。ミシェル氏はNPT体制の強化が「私たち世代の義務」と言い切った。日本は連携して核軍縮合意へ力を尽くす必要がある。

 核を使わせないためには、最終的に廃絶するしかない。原爆の惨禍を知る日本は今こそ条約に背を向ける姿勢を改め、少なくとも締約国会議にオブザーバー参加をするべきだ。