広島県北広島町役場前に設けられた県議補選山県郡選挙区のポスター掲示板。立候補者は1人だけだった(4月15日)

 妻と母親の分を合わせて3枚。広島県北広島町で福祉サービスの「便利屋」を営む竹下雅彦さん(47)は4月15日の県議補選山県郡選挙区(補欠定数1)の告示日を過ぎて程なく、県選管から届いていた投票所入場券を自宅のごみ箱に捨てた。「結局、また選挙にならんかったから。最近の地方選は無投票ばかりですよ」

 ▽3年間で4度目

 中国山地の島根県境にある人口約1万8千人の北広島町。今回の広島県議補選で、地方選の無投票は3年間で4度目となる。2019年の県議選(定数1)、21年の町長選は、いずれも現職の厚い地盤に挑む対立候補が出なかった。町長選と同日の町議選(同12)に至っては、「なり手不足」を懸念した町議会が定数を4減らしたが、選挙戦にならなかった。

 県議補選は、19年の参院選広島選挙区を巡る大規模買収事件で河井克行元法相(59)夫妻から現金を受け取り、相次ぎ辞職した県議と広島市議の後任を決める22年3、4月の「補選ラッシュ」の一つだった。4件で経費が計2億円超に上ると報道で知り、竹下さんは選挙結果に注目していた。

 うち3件の投票率は低調だった。ただ、有権者が1票を投じる機会はつくられた。対して、北広島町を含む山県郡選挙区の県議補選は唯一、無投票に終わった。竹下さんは無駄になった投票所入場券やポスター掲示板を見るにつけ、ひどくむなしさを覚えたという。無投票でも、県選管は経費を約2千万円と見込んでいる。

 「本来は必要なかった選挙。せめて自分の1票で信任したかった。こんなに選挙がないと、住民の地方政治への関心は薄れるんじゃないか」。竹下さんは無投票が政治への無関心を招く「負の連鎖」を心配する。

 立候補した本人はどう受けとめているのだろうか。山県郡選挙区で初当選した本長糧太県議(48)は「無投票でも、投票で選ばれても、県議の職責に変わりはない。特にこだわりはない」と話す。4月15日の告示日には選挙ポスターを張り、選挙カーで遊説もした。初の選挙運動は午後5時までだった。

 ▽「民主主義 危機」

 「無投票では有権者の信任を得たことにならん」と指摘するのは、元北広島町議の藤井勝丸さん(84)だ。念頭にするのは、大規模買収事件で辞職した「被買収」の町議の再選だ。

 河井氏からの現金授受が発覚後に「けじめをつける」と辞職したその町議は、半年後の21年の町議選に立ち、選挙戦を経ずに無投票で復帰した。藤井さんは、無所属で旧千代田町議から通算5期務めた町議経験を踏まえ「有権者は選挙を通じて政治家を監視する。投票ができないのは大問題で、無投票は民主主義の危機だ」と訴える。

 有権者が政治への関心を高め、候補者は「政治とカネ」の問題や地域の課題を巡る論戦で応える―。そんな好循環への転換点にしたい県議選が、来春の統一地方選である。

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 地方選の投票率は軒並み低迷し、無投票も相次ぐ。有権者が政治に参加しないと、何が起きるのか。政治参加が進めば、まちは変わるのだろうか。中国地方で「民意の先」を見た。

 <クリック>2022年の広島県議・広島市議補選 19年7月の参院選広島選挙区を巡る大規模買収事件で、現金を受け取った広島県議2人、広島市議3人の辞職に伴い、3、4月に計4選挙区で補選があった。うち3選挙区は選挙戦となり、投票率は県議補選府中市・神石郡選挙区(補欠定数1)38・17%▽市議補選安芸区選挙区(同)20・60%▽市議補選安佐北区選挙区(補欠定数2)19・07%―だった。県議補選山県郡選挙区(補欠定数1)は立候補者が1人にとどまり、無投票となった。