「無投票だからこそ有権者に丁寧に向き合いたい」。府中市役所の市長室から市内を眺める小野市長(撮影・井上貴博)

 広島県府中市の小野申人市長(65)は、再選した4月の市長選で初めて無投票を経験した。対立候補が出ず、「市民に広く『続けてくれ』と思われたと受け止めた」。無投票当選でも市民の「信任」を得たと考えているという。ただ、市議選を含めて6度目の選挙は一抹の物足りなさも感じた。

 2018年の前回市長選は、再選を目指した戸成義則前市長(81)に、地元企業などの支援を受けた小野市長が「市政の刷新」を掲げて挑み、一騎打ちの大接戦となった。職を失うんじゃないか、いや優勢かも―。市議からの転身を目指した小野市長の心中は、7日間の選挙戦中も振り子のように揺れた。そして投開票日。8347票を得て216票差で勝利した。

 同日選の市議選が無投票になったからか、14年の前々回選で70・23%あった投票率は、過去最低の49・08%へ落ち込んだ。かつ、半数は市政の継続を望んだ。そんな民意を意識しながら、小野市長は1期目で、18年の西日本豪雨からの復興や新型コロナウイルス対策、市中心部の活性化などに注力した。その審判を有権者に仰ぐはずだった2期目への関門は消えた。

 戸成前市長は「市政運営に大きな問題はないと市民に映り、4年で組織はより固まった。よっぽどのことがないと対抗するもんはおらんでしょうな」。地元経済界の関係者も「人材不足との見方もできるが、14年だけでの評価は難しい」と語り、2期目は一般的に無投票になりやすいとみる。

 小野市長は告示日に再選が決まった後、今回は選挙戦となった市議選で、自身に近い候補者たちの事務所に顔を出し、あいさつしたという。「毎回厳しい戦いになるのは正直避けたい。でも次の4年で目指す方向や政策を訴える機会が少なくなったのは否定できない」。辛勝と不戦勝を経験した本音をのぞかせた。

 予算執行や条例制定などを通じ、まちづくりへ広く、強い権限を持つ自治体のトップ。中国新聞社が5月に中国地方5県の市町村長を対象にしたアンケートで、回答者の6割が無投票当選でも「信任を得た」と認識していた。実際に経験した首長48人では34人となり、70・8%に上る。5県の全107市町村のうち、4割強の45市町村で直近の首長選が無投票だった。中でも11町村は無投票で新たなトップが誕生した。

 広島県坂町の吉田隆行町長(69)は初挑戦した1993年から8回続けて無投票当選を重ねる。在任中の全国の市町村長で連続8回は大分県姫島村長と並び、全国最多だ。

 「信任を得ている」と吉田町長は言う。町民や町議会の意見に耳を傾け、町政に反映してきた結果だと自負し、「信任を得られなければ、何らかの事が起きている」。

 有権者が1票を投じる機会がなければ、信任、不信任の民意は数字に表れない。そして、市町村長たちは「無風」の意味をそれぞれに解釈している。

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 市町村のトップであり、有権者から4年に1度の審判を受ける「地方政治家」としての顔も持つ市町村長たち。その本音の一端から、有権者や地方議会との距離感を考える。