国会議事堂を背景に、左上から時計回りに案里氏、克行氏と、お中元、餞別の封筒のコラージュ

 2019年の参院選広島選挙区で起きた河井克行元法相(59)と妻の案里元参院議員(48)による大規模買収事件は、有権者の政治不信を高め、諦めを生んだ。政治家同士で寄付し、見返りを求め合うような「あしき慣習」はなくなっていない。そんな政治を見逃す社会の無関心さが逆に事件につながったとも言える。「みんなの政治」シリーズの締めくくりに、金権選挙をはびこらせた土壌と、政治の再生のヒントを身近な営みから考える。

 「お中元、お歳暮の代わりの意味合い」。克行氏は大規模買収事件を巡る東京地裁での公判で、国会議員から地方議員への年2回の資金提供をこう説明していた。政界では「夏の氷代、冬の餅代」と呼ばれる。名目は政党の勢力拡大や自身の地盤固めだ。現金を受け取った広島市議たちは、克行氏のみならず、国会議員たちから「儀礼的な贈呈」が続いていたと語った。

「仕事への下心」

 「贈り、贈られの社交辞令に合理性がないと思って…」。廿日市市で建築会社を営む上野誠一郎さん(57)は3年前、元請け先の数社に毎年贈っていたお中元とお歳暮をやめたという。

 30年近く続けた慣習を打ち切ったのは、虚礼への疑問からだった。その後、仕事が大きく減ったわけでなく、元請け先との関係が悪くなることもなかった。上野さんは、かつての自らの胸中を推し量る。「日頃の感謝のほかに、『今後も仕事をお願いします』という下心もあったのかもしれない」

 お中元やお歳暮といった「贈答文化」は日常生活に深く根付く。金品を贈って感謝の気持ちを伝え、人間関係を良好に保つのに役立っている。餞別(せんべつ)や祝儀、香典は、何かと物入りな時期に、助け合う相互扶助の精神も映す。

 前代未聞の大規模買収事件では、日本人の慣習に河井夫妻がつけ込んでいた。「当選祝い」「陣中見舞い」という名目で地方議員に渡した現金に、参院選広島選挙区に立候補していた案里氏の「選挙を頼む」という買収目的があったことが、判決で認められた。そんな夫妻の思惑に気付きながら、地方議員たちも受け取っていた。

 一連の取材で記者が感じたのは、慣習として続いてきた金銭授受が政治家の感覚を鈍らせ、選挙に絡んだ「裏金」ですら安易に受け取る土壌をつくったのではないかという疑問だ。

惰性見直す時期

 「みんな現金を渡していて、自分だけやめるのは不安だった」と記者に明かしたのは、広島県内の会社員男性(28)だ。昨年まで勤めていた広島市内の企業にあった異動期の餞別の話で、相場は5千円。封筒に入れ、転勤する上司や同僚に、送別会の席などで手渡したという。

 違和感を覚えていた社内の慣習は、転職先にはなかった。「ほっとした。ビジネスライクなやりとりが嫌だった。結局、惰性で渡していたのかな」

 贈る側の政治家たちは下心を巧妙に隠し、贈られた側も気付かないふりをして、今も寄付や交付金の名目で金銭の授受を続けている。贈答文化に慣れ、感度が鈍った私たちの目を逃れながら。本当に必要な「政治のカネ」なのか、惰性を排して見つめ直す姿勢が、政治家にも有権者にも求められている。

 <クリック>2019年の参院選広島選挙区を巡る大規模買収事件 河井克行元法相の東京地裁での確定判決によると、19年7月の参院選広島選挙区に自民党新人として立った妻の案里氏を当選させるため、広島県内の地方議員や後援会員たち計100人に合わせて2871万円を渡した。うち県議4人への160万円は案里氏と共謀。克行氏は懲役3年の実刑判決、案里氏は懲役1年4月、執行猶予5年の有罪判決がそれぞれ確定した。