広島市中区の流川・薬研堀地区。新型コロナウイルス禍で夜の会合を減らした企業は多い

 広島県政界を揺るがした河井克行元法相(59)夫妻による大規模買収事件で、国会議員と選挙区内の地方政治家たちが築いていた「持ちつ持たれつ」の関係が鮮明になった。

 「中山間地域で課題がたくさんあり、国政の場でプラスの方に持っていく期待をした」「災害復興を要望することもある。関係性を崩したくなかった」…。

国政選挙で支援

 克行氏の東京地裁での公判で証言した地方政治家たちは、違法なカネの受け取りを拒めなかった理由を口々に語った。地域に張り巡らす人脈で国政選挙を支え、当選後は地元への事業や予算の配分に汗をかいてもらう―。しがらみを受忍しつつ、相応の「見返り」を期待してきた地方の悲哀をそこに感じた。

 新型コロナウイルスの感染者が減少傾向に入った6月初めの夜。中国地方最大の歓楽街、広島市中区流川・薬研堀地区で、行き交うほろ酔い客に声をかけると、同じような情景が浮かんだ。同僚と歩いていた食品販売業の30代男性は「接待帰りですよ。取引先との『飲みニケーション』は、すぐに結果が出なくても大事。でも2次会までは勘弁ですね」

 「企業と取引先」「元請けと下請け」といったビジネス上の人間関係が、そのまま国会議員と地方議員のつながりに当てはまるわけではないだろう。そもそも国と地方は対等な立場のはずだ。しかし、被買収罪に問われた地方議員からは「(克行氏は)雲の上のような存在。たたき返すのは失礼」「恥をかかせることはできない」などと、ことさらに自身の立場を国会議員の下に置く言葉が聞かれた。

 克行氏から買収目的の現金を受け取ったという元議員は「結局、『俺の酒が飲めんのか』と迫られたわけよ」と苦笑していた。差し向けられた現金入りの封筒は、さながら得意先からつがれた一杯のようだ。

適度な距離感を

 「最近は夜の会合がなくなってありがたいです」。福山市の不動産業の40代女性は、コロナ禍で接待が減ったのを喜ぶ。大手ハウスメーカーと酒席を囲む機会は2年以上も途絶えているが、仕事に大きな影響はないという。ただ、接待文化を否定するわけではなく、「会議室では得られない情報がある」と認める。人間関係を築くのは大切だが、濃密になれば縛られる。適度な距離がいいのだろう。

 コロナ禍で遠のいた客足が戻りつつある流川。半世紀近くスタンドを営む林美代子さん(70)はカウンター越しに「仕事相手でも友達でも、一緒に飲む時間を共有できるのはすてき。けど、打算で飲むお酒は、おいしくないでしょ」とアドバイスをくれた。グラスの中でぶつかる氷の音が、時にしがらみを断つ勇気を、と告げている気がした。

 <クリック>大規模買収事件で被買収罪に問われた地方政治家 検察当局は当初、河井克行元法相夫妻から現金を受け取った地方議員たち100人全員を不起訴にしたが、東京第6検察審査会は1月、広島県議や広島市議たち35人を「起訴相当」とする議決を公表。検察当局は3月、35人のうち否認する9人を在宅起訴、他の25人を略式起訴した。略式起訴のうち22人は罰金刑が確定し、残る3人は略式命令の一部を不服として正式裁判を請求している。「起訴相当」の残る1人は体調不良を理由に検察当局が再び不起訴とした。