自宅そばを歩く元自治会長の金沢さん。後任探しは半年続いた(広島県熊野町)

 府中市議を5月に引退した丸山茂美さん(74)の苦悩ぶりが、深刻ななり手不足を浮かび上がらせた。「後継がいないなら続けようか最後まで悩んだ」。政治にかかわらず、公的な役割に背を向けがちな時代の空気が社会に漂う。

後任探しに苦労

 「何軒も頼み込んだが断られた。公の仕事はみんな面倒がってやりたがらん」。広島県熊野町の金沢宏さん(82)は、地元の自治会長を退いた4年前に後任探しに苦労したのを忘れない。半年かけて地域を回り、ようやく引き受け手を見つけたという。

 広島市安佐南区の町内会長の松田弘生さん(74)は来年に改選を迎えるが、やはり後任がみつかっていない。「『町内会に入るメリットがない』との声を聞く。退会する人も多い」

 広島市によると、2021年度の市内の自治会・町内会の加入率は55・1%。00年度から20ポイント減り、右肩下がりが続く。市が20年度に全自治会などに実施したアンケートでは、役員の「高齢化」「なり手不足」を悩みに挙げる会がいずれも6割超あった。

 PTA活動も同様だ。小学校で役員をした佐伯区の会社員女性(37)は「子どものために引き受けたが、仕事もあるし、次は絶対やらない。任意団体に強制的に加入させるのは、保護者の負担でしかない」。

 いずれも地方議会が抱える問題と共通する。「現役」で働く期間が延びたり、共働きの世帯が増えたりした影響はあるが、公的な役割は誰かが担うはずだ、と人任せにしていないだろうか。2019年の参院選広島選挙区を巡る大規模買収事件では、なれ合った一部の限られた政治家たちが有権者の知らぬ間に金権選挙を横行させ、周囲も見て見ぬ振りをしてきた側面がある。

 閉ざされた政治の世界に新風を吹き込もうと、今、有権者の政治参加を後押しする民主主義の形が注目されている。立候補ではなく、くじという偶然で住民代表を選ぶ「くじ引き民主主義」だ。

くじ引き村議会

 人口約860人の岡山県新庄村では、村議会が、選挙人名簿から無作為に選んだ有権者による「自分ごと化会議」を18年11月に初めて開催。17人が19年6月まで4回、役場建て替えを議論し、既存施設の活用や村職員の業務見直しを村議会へ提言した。

「自分たちのまちの問題は自ら決める」という地方自治の精神が息づく。磯田博基議長(73)は「これまでは一部の村民の声しか届かなかった。会議に参加し、村づくりに関心を持ってほしい」と語る。

 自治会長を経験した熊野町の金沢さんはいま、小さな変化を感じているという。「最初は仕方なく引き受けたけど、私自身のものの見方が変わった。公益を考える、とかね」。一人でも多くの市民が政治や社会に関わる大切さを、少し誇らしげに語ってくれた。

 <クリック>地方議員のなり手不足 公選法は議員選で定数以上に立候補者がいなかった場合、「投票は行わない」と規定。2019年4月の統一地方選では「なり手不足」を背景に、中国地方5県の県議選で総定数の4分の1に当たる62人が無投票で当選した。広島県内の市町議選(補欠選挙を除く)では、00年以降、府中市や大竹市、海田町など6市町で各1回、無投票に終わった。