物価は急上昇しているのに、受け取る年金額が減っている事態は深刻だ。誰もが安心して老後を過ごせる社会をどう築いていくか。参院選で各党はその道筋を明示する責任がある。

 団塊の世代が後期高齢者の仲間入りを始め、一方で制度の担い手となる人口の減少が続いている。少子高齢化に歯止めがかからず、日本は今後20年間で経験したことのない「超高齢化社会」を迎えることが避けられない。

 参院選で自民、公明両党は現状を持続させる「全世代型社会保障の構築」を、野党は抜本改革を訴えている。与野党の施策の違いは鮮明なのに、議論が盛り上がらないのはなぜなのか。

 年金は国家の基本をなす社会保障制度である。国民の信頼を得て長期的展望に立つ政策が欠かせない。財源のあり方にも踏み込まず、制度の大枠を示すだけでは不十分だ。これでは政党の本気度も見えてこない。

 国民年金(基礎年金)だけの自営業者と、国民年金と厚生年金の2階建ての会社員では給付額にかなりの開きがある。また自らの保険料を高齢世代に仕送りする「賦課方式」のため、少子化が進む若い世代の負担感が大きい。

 職種や世代の差を乗り越えて制度を維持する鍵は、保険料を担ってくれる人口増と物価上昇を上回る賃金増である。だが、どちらもうまくいかず、年金は目減りを続けている。制度が複雑なこともあいまって、若い世代が年金に不信と不安を募らせるのも無理はなかろう。

 政府が進めているのは、平均寿命の伸びに伴って高齢者に働いてもらう「手直し」だ。厚生年金の受給開始年齢を75歳まで伸ばせるようにした。その歳まで働けば年金額は現役時代の収入にほぼ匹敵するという。

 将来の年金額をカバーする手法だが、高齢者は非正規雇用がほとんど。職種も限定的だ。誰もが健康なわけでもない。高齢者が働ける環境改善も併せて進める必要がある。

 もう一つは非正規労働者に対する厚生年金の適用拡大だ。政府は、所得の少ないパート従業員や勤労学生も厚生年金に加入できると強調している。

 将来の年金額を底上げする狙いは理解できなくもない。だが事業所や加入者当人の保険料負担は増え、給与の手取り額は減る。扶養控除からも外れ、加入した方が「損」になるケースもあろう。既存税制の見直しなどセットで進めなければ、十分な効果は得られまい。

 野党が訴える最低年金やベーシックインカムは保険料未納問題などを解決する糸口になるかもしれない。ただ制度創設には巨費が必要だ。国民負担の大幅増が見込まれる一方で、消費税の減税を求めるならば財源はどう捻出するのか。説明も議論も足りているとは言いがたい。

 カエルはいきなり熱湯に入れると驚いて逃げるが水から徐々に温度を上げていくと逃げ出すタイミングを失い、死んでしまう―。今の年金制度は「ゆでガエル理論」をほうふつさせる。

 課題に目をつぶり抜本的対策を先送りできるような状況ではなかろう。負担増が必要なら、各党はきちんと示した上で国民の理解を得るのが筋だ。難しい課題だからこそ参院選で踏み込んだ議論をしてもらいたい。