中原隆志診療准教授

 酒をあまり飲まない人の肝臓病「非アルコール性脂肪肝炎(NASH)」が増えている。原因の大半は食生活の乱れや運動不足だ。「沈黙の臓器」と呼ばれる肝臓は自覚症状がなく、肝硬変や肝がんに進行すれば命に危険が及ぶこともある。広島大病院(広島市南区)消化器・代謝内科の中原隆志診療准教授(42)に、疾患のメカニズムや治療法を聞いた。(田中謙太郎)

●どんな病気?

・肝臓に脂肪がたまる「脂肪肝」による炎症

・肥満や糖尿病、脂質異常症の人がなりやすい

・症状はほとんどなく、悪化すると肝硬変や肝がんになり危険

 肝臓の細胞のうち5%以上に脂肪がたまった状態が「脂肪肝」です。1日の飲酒量が缶ビール1本以下やゼロでも、炭水化物や脂の多い食事を続けてカロリーを消費しないとなる脂肪肝を、非アルコール性脂肪性肝疾患(NAFLD)と言います。その中でもNASHは肝細胞の障害や炎症があり、予後が悪い状態です。国内ではNAFLD2260万人、うちNASH376万人との試算があり、年々増えています。

 NAFLDは血液検査や画像検査で診断します。さらに針を皮膚から肝臓に刺して組織を採取する「肝生検」により、NASHかどうか診断します。男性は40~60代、女性は50代以上で多く、特に糖尿病にかかっていると悪化しやすいです。

 肝硬変に進行すると、肝疾患での死亡リスクは約40倍に跳ね上がります。肝硬変は肝臓が硬くなる「線維化」した状態で、腹水や足のむくみ、眼球や皮膚が黄色く染まる黄疸(おうだん)などの症状も出ます。食道の静脈が太くこぶのようになる食道静脈瘤(りゅう)を起こすこともあり、破裂して出血する危険があります。

 NASHから肝硬変を経ずに肝がんになるケースもあります。肝がんの主な原因はB型、C型肝炎のウイルスでしたが、治療薬の進化で減少傾向です。代わってNASHやアルコール性肝疾患に起因する非ウイルス性の肝がんが急増しています。

●ここに注意!

・健康診断で血小板が減少していたら異常のサイン

NASHの治療薬は今のところない

 健康診断の血液検査で血小板の減少があると、NASHを疑ってください。「FIB4 index」という肝臓の線維化指標の数値が高ければ、肝臓専門医の受診を検討しましょう。肥満や糖尿病の人は特に注意が必要です。

 NASHの患者は2030年までの15年間で、国内で15倍に増えるという予測があります。糖尿病や脂質異常症など合併症の治療薬は豊富な一方、NASH自体には有効な薬がありません。開発が待たれますが、NAFLDから悪化しないよう、早めに生活習慣の改善に取り組みましょう。少量でも飲酒を控えることも意識してください。

●治療法は?

・バランスの取れた食生活、有酸素運動や筋トレが有効

 体重を7%減らすと、NASHや肝機能の改善に効果的とされています。食事療法では一人一人に合った1日の適正なカロリー量を計算式で算出します。さらに、1週間の食事メニューの参考になるのが炭水化物と脂質を抑えた「地中海式食事法」です。野菜やオリーブオイル、豆類を毎日取り、魚や鶏肉は週に数回、牛豚肉やお菓子は月数回に抑えます。毎食制限するのは難しくても、1週間のトータルで栄養バランスを整えられれば大丈夫です。

 運動療法はウオーキングや水泳など日常的にできる運動を1日20~30分間、週数回続けます。室内でのスクワットや椅子に座ってのかかと上げや膝伸ばし、ベッドに寝たままでの脚や尻上げも効果があります。アルコール性肝炎の人の場合は禁酒が必須だが、一連の治療法も有効です。

 広島大病院には、メタボリックケアユニット(MCU)というチームがあります。医師や管理栄養士、リハビリの理学療法士が連携し、患者の食事・運動療法を指導しています。食道静脈瘤の患者には出血予防の内視鏡治療など、より多様な治療を進めます。

 <中原准教授の略歴>三原市出身。徳島大医学部卒、広島大大学院医学系研究科博士課程修了。21年から現職。日本内科学会、日本肝臓学会、日本消化器病学会の専門医・指導医