喉元過ぎれば、熱さを忘れる―。それを繰り返してはいけない。新型コロナウイルス対策で、政府は、新型インフルエンザの教訓を踏まえた12年前の提言を生かせなかったからだ。

 国立感染症研究所や保健所といった危機管理を担う組織の大幅強化と人材育成などの提言である。それらを政府に求める報告書を専門家会議がまとめていた。ところが、保健所などはその後、弱体化されてしまった。

 政府が引き起こしたとも言える医療体制のもろさが、新型コロナで浮き彫りになった。その反省を踏まえ、どう立て直すのか。参院選の争点のはずだが、論戦は盛り上がっていない。

 折しも、いったんは落ち着いていたコロナの新規感染者が、東京都や広島県などで増加傾向に転じている。島根県ではおととい過去最多に達した。重症者の数は低い水準に抑えられているものの、油断は禁物だ。

 さらなる変異株や、新たな感染症にどう備えるのか。コロナの出口戦略をどう描くのか。論じるべきテーマは少なくない。

 医療体制のもろさは、感染拡大のたびに露呈した。保健所だけでなく、患者の受け入れ病院の業務が逼迫(ひっぱく)した。病床確保が追い付かず自宅で療養せざるを得なかった人が、病状の急変で亡くなるケースも相次いだ。

 人口千人当たりの病床数は欧米より多いが、逆に100床当たりの医療従事者は少ない。そうした弱点が、多くのスタッフが必要な新型コロナ医療で、改めて突き付けられたと言えよう。医師や看護師といったスタッフを増やすため、思い切った施策が必要ではないか。

 全体の割程度にとどまる公的病院にコロナ対応が集中した点も改善すべきである。鍵を握る民間病院の協力をどう得ていくのか。法整備をはじめ、政府の積極的対応が欠かせない。

 司令塔機能の強化も当然、求められよう。政府は、二つの組織新設を打ち出した。世界最高レベルの感染症対応能力を持つ米疾病対策センター(CDC)をモデルにした専門家組織「日本版CDC」と、有事に企画立案や総合調整機能を担う「内閣感染症危機管理庁」である。

 司令塔機能の強化は、野党の多くも主張しており、異論はなさそうだ。ただ、政府案は急ごしらえ感が強く、中身がはっきりしていない。縦割りの弊害を打破できるのか、地方との連携や役割分担をどう進めるのか。新たな組織の法的な位置づけや権限、予算規模を含めて、全体像の具体化が急がれる。

 日本版CDCには、コロナを巡る失政を繰り返さないため、政策を決定する際の科学的根拠を示すことが求められる。唐突な全国一斉休校や、税金の無駄遣いとなった「アベノマスク」など、思いつきの対応で混乱を招いてきたからだ。

 併せて、政府の意思決定の透明化や、施策を打ち出した理由の説明も義務付けたい。感染拡大防止と社会経済活動をどうやって両立させるか。国民の理解を深めることにもなるはずだ。

 中長期的には、感染症のワクチンや治療薬を自国内で開発できる研究環境も整えたい。科学技術立国への試金石である。

 新たな感染症への備えを万全にするための課題は多い。各党は論戦を通して、より充実した対策を目指さねばならない。