▽飾らぬ人柄 居心地良く

 大将である増田正弘さん(70)の自慢の一品は「鯛(たい)の骨蒸(こつむし)」。旧国鉄に勤めていた父親に連れられ、職員御用達の店で食べた味が忘れられず、鮮魚店であらをもらっては研究した。

 仕事の無理がたたり、3年前まで長く休業していた。やせ細り、周囲から「長くはないだろうから、悔いのないよう生きて」と心配されるほどだった。助言に従い、好きな物の飲み食いを続けたところ、貯金を使い果たしたころに全快した。店は告知もなく再開したが、なじみにしていた客がすぐに集まり、かつてのにぎわいを取り戻した。

 それ以来、「好きなように、後悔のないように」がモットーになった。接客も同様。かつて父親にしてもらったように、おいしい物をおなかいっぱい食べてもらう。「量が多い」「水割りが濃い」と喜ばれこそすれ、「高い」「少ない」と文句を言われないように。

 酔って周りに迷惑を掛けるお客に「帰りんさい」とぴしゃりと言うことも。20年来の常連客でも、しばらく出入り禁止にする。そんな大将だからこそ、安心して酒が飲める。安さとおいしさだけではない。さりげない気配りと居心地の良さが、ここにはある。