生活の糧の一つとなっている梅の生育具合を確かめる中村さん

 山口県周防大島町でも静かな集落に居を構え、梅の自然栽培などで生計を立てる。東京を拠点にパンクロックで観客を熱狂させた時代から一変。「身近に土や水がある。コンクリートに囲まれていた東京とはまるっきり違う」と笑う。

 【写真】島で暮らす中村さん

 人気バンド「銀杏(ぎんなん)BOYZ(ボーイズ)」の元ギタリスト。若者の心に刺さる歌と過激なパフォーマンスで支持を集めた。一方、才能がしのぎを削る世界で、自らの「色」を過剰に出すことに違和感を覚えた。変化の激しい東京では「おかしいと思っても考える時間はなかった。感受性を閉じていた」と振り返る。

 バンド内の人間関係に悩み、心のバランスを崩しかけた頃、東日本大震災が起きた。原発事故の影響を懸念した妻は娘を連れ、母の実家がある周防大島に避難した。自身も2013年春に移住した。

 島で暮らし8年。「都会のようにガツガツしなくても、周囲とのつながりから仕事や役目が流れ込んでくる」と自然体だ。高齢化する集落では移住直後に自治会役員を任され、近所から野菜をもらうようになった。農家と農産物を売るマルシェも企画した。今は農家と僧侶に加え、紹介されるアルバイトや特産品のネット販売を掛け持ちする。

 震災後も新型コロナウイルスの流行など価値観が揺らぐ出来事が続く。昨年11月からは知人の独立研究者森田真生さん(京都)とオンラインの学びの場「生命ラジオ」を始め、島内外の約40人が集う。「模範解答がない時代。新しい生き方を探りたい」と語る。

 18年の大島大橋への貨物船衝突事故を機に、東北の被災地で脚光を浴びたコミュニティーFMを開きたいと思うようになった。当時必要な情報を十分に得られなかったからだ。「災害時は起きていることをリアルタイムでシェアし、普段は何げないことを流したり、島の未来を考えたりする場にしたい」。縁あった人たちと共に生きる方法をじっくり探すつもりだ。(余村泰樹)