趣味・食・遊ぶ

言ノ葉ノ箱
  • この記事にコメントする

「みんな」の「へん」

2021/2/26

 歌人の枡野浩一さんの新しい児童書「みんなふつうで、みんなへん。」というタイトルは、金子みすゞの「わたしと小鳥とすずと」という詩の最終行の「みんなちがって、みんないい。」をアレンジしたものである。
 みすゞの詩は、人間である自分と小鳥と鈴の、できることとできないことを並べて比較しているが、それぞれの優劣をつけるのではなく、それぞれの個性を讃えている。「わたしが両手をひろげても、/お空はちっともとべないが、/とべる小鳥はわたしのように、/地面(じべた)をはやくは走れない。//わたしがからだをゆすっても、/きれいな音はでないけど、/あの鳴るすずはわたしのように/たくさんなうたは知らないよ。」と。
 「みんなふつうで、みんなへん。」は、小学校3年生のクラスメートたちの、ちょっとした見解のずれを淡々と描いている。例えば、「ボウル」と「ボール」を勘違いして、一人だけわざわざ新しく買ったオレンジ色のボールを持ってきてしまったり、「抽選」という言葉の意味を正確に知らず、応募したキャンペーンの賞品が必ず送られてくると思い込んだり、木工用接着剤を手にぬってかわかすと透明になると聞いて、自分の手が透明になると期待したり。
 そういえば、自分も独自の思い込みで行動したことはずいぶんあった気がする。大半は忘れてしまったが、一生懸命念じれば壁をぬけられるのではないかと、長い間壁にてのひらを当て続けたことを思い出した。
 この本の絵を担当した内田かずひろさんの個展が、東京・新宿のカフェ・ギャラリー「ゑいじう」であり、内田さんにも枡野さんにもお会いすることができた。やわらかいタッチの明るい色彩の内田さんの原画は、ながめていると春の野に座っているようなあたたかな心持ちになる。

個展会場での内田かずひろさん

個展会場での内田かずひろさん

 似顔絵サイン企画があったのでお願いすると、絵本にちなんで小学校3年生のときの顔を予想して描いてくれた。内田さんは福岡県出身で、私も小学3年生のときには福岡にいたので、どこかですれ違っていたかもしれない。

内田さんの似顔絵サイン

内田さんの似顔絵サイン

 内田さんは、昨年末住んでいた都内のアパートが取り壊し前提で入居した部屋から出なくてはならなくなったが、新しい住居を借りる資金が捻出できず、ホームレス状態に陥っているという。漫画家デビュー30年の記念イベントでもある今回の個展を敢行すること等がネックとなり、生活保護の申請を断念したのだという。支援を受けるにあたって生活基盤を整えることが第一となり、創作に関わる活動のために支援を使ってはならないとのこと。先行きが不透明なフリーの仕事は、根本的な不安を抱えている。身につまされるエピソードである。

このなかのだれかひとりはあなたかも みんなふつうで、みんなへん。です
                    枡野浩一

枡野さんの短歌サイン

枡野さんの短歌サイン

 枡野さんがこの本のサインに添えた短歌。誰かにとっての「ふつう」は、誰かにとっては「へん」である、ということに、改めて気付かされる。創作とは「へん」の個性を魅力として肯定的に認め合うことだと思う。人はパンのみにて生くるにあらず、なのだ。
                 (歌人・作家)

この記事に対するコメント
一覧

  • コメントはありません

  • この記事にコメントするへ
  • 前の記事へ
  • 次の記事へ

 あなたにおすすめの記事

記事一覧