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言ノ葉ノ箱
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疫病神と妖怪と

2021/5/31

 5月23日に秋田魁(さきがけ)新報社主催の秋田県の「全県短歌大会」に講師として参加した。秋田を来訪して対面で話をする予定だったのだが、東京に緊急事態宣言が出されたために、Zoom(ズーム)を使ったオンラインでの参加となってしまった。当地の風景を写真で伝えることはできないが、秋田ならではの風物を含む作品などを紹介したい。
 私が特選に選んだ歌は、次の三首である。

終点の先は霊峰行きの路あの時君は樏(かんじき)結へり
                    土谷敏雄

大いなる鳥海山の水張りて明日は田植の棚田が光る
                    佐々木成

手の甲をつまみて作る山脈の高さ競えり夫と雪の日
                    伊藤徳ゑ

 霊峰と呼ばれる山には多々あるが、秋田の方にとっての霊峰といえば鳥海山のことだろう。雪の上を歩くための樏を結う「君」の姿に、これから厳しい登山が始まることへの緊張感が伝わる。同じ鳥海山でも、二首目は棚田の田植え前夜を詠んでいる。まだ稲が入る前の鏡のような棚田の美しさを描き、これから豊かな実りへと向かう期待感がある。
 三首目も「山」がテーマだが、手の甲の皮膚をひっぱってできる山である。加齢と共に皮膚も伸びて山も高くなる、それをよきものとして競っている夫婦の行動に、心なごむ。老いを前向きに捉えた、ユニークな山の歌である。
 佳作に、こんな一首を選んだ。

いにしへの疫病神の詫び証文掲げて開く海辺の店は
                    打矢京子

 「疫病神の詫(わ)び証文」とは何だろうかと調べてみると、秋田県にかほ市に伝わる、疫病神に詫び状を書かせた江戸時代の逸話があることがわかった。仁賀保金七郎という実在の人物が、屋敷に進入しようとした疫病神をしかりつけたため、おののいた疫病神が詫び状を書いて立ち去ったという。詫び状は、中心に宛て名、その周りに円周状に疫病神のメッセージが綴(つづ)られている秀逸なデザインで、お守りとして使われているようである。歌に詠まれた海辺の新しい店も、現代の疫病のコロナ終息を願って掲げたのだろう。

手芸店のアマビエ

手芸店のアマビエ

 疫病除(よ)けのお守りとしては、江戸時代の瓦版に登場した妖怪アマビエがすっかり有名になった。「疫病の流行を防ぐには、私の絵を描いて見せるとよい」と言ったという伝説から、ネット上にアマビエの様々な絵が溢(あふ)れ、街中でも独自の創作物を見かけるようになった。先日訪ねた埼玉県川越市の手芸店でも、編物の作品サンプルとしてアマビエが鎮座していた。

5月の川越の町

5月の川越の町

 アマビエは、下半身には魚のような鱗(うろこ)があるが、顔にはクチバシらしきものがあり、鳥を思わせる。当時の人々も、身近な動物に呪術的な力を感じていたことは間違いないだろう。

機械の穴を出るシジュウカラ(撮影・東秀好)

機械の穴を出るシジュウカラ(撮影・東秀好)

 通りがかった公園の、配電盤らしき機械が入っている箱の中から、シジュウカラが飛び出してきた。箱の中で子育てをしているらしい。人間の作った道具を上手に利用する動物の姿は、たくましかった。
                 (歌人・作家)

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