運動部デスク日誌

日本新、山縣亮太が刻む「365歩のマーチ」

2021/6/7

 山縣亮太らしい、サプライズだった。陸上の布勢スプリント男子100メートル。「ゼッケン644番」の一般参加選手にとって、このレースの最大のミッションは五輪参加標準記録(10秒05)の突破だったはず。そのハードルを予選で軽々とクリアし、決勝では9秒95という驚きの日本新記録を打ち立てた。復活ではなく「進化」した姿を、五輪代表争いの正念場で見せつけた。

 復活ではなく、進化―。リオデジャネイロ五輪の時にも用いたこの表現は、山縣の競技人生を象徴している。2013年4月の織田記念。桐生祥秀との激闘の末、10秒04で2着に入った。「(あの瞬間から)9秒台を期待されるのは宿命だと思ってきた。次のレースでも出せるという気持ちだった」。当時21歳。山縣には誰もが認める才能と勢いがあった。

 ただ、そこからの歩みは「365歩のマーチ」だった。歌詞の通り、3歩進んで2歩下がる。結果を出したら、しばらく故障で苦しむ。そんなサイクルを繰り返した。9秒台もライバルに先を越され、世界選手権の代表を逃し…。それでも、29歳目前で宿命を果たせたのは、2歩下がっても、必ず3歩進んできたから。汗かきべそかき、1歩ずつでも前に進んで行けたから。復活ではなく、進化し続けてきたからだろう。

 山縣の衝撃のニュースは、9秒91のアジア記録を持つ山縣の永遠のライバル、蘇炳添(中国)にも届いているだろう。対決を実現するには、もう一つ大きなハードルを越えなくては。幸せは歩いてこない。ならば、この勢いのまま、日本選手権、そして東京五輪のスタートラインまで突き進むのみである。(小西晶)


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