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言ノ葉ノ箱
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街とスポーツと川

2021/7/29

 埼玉県から東京都にかけて流れる荒川の河口近くに、大島小松川公園という公園がある。この公園は、今回の東京オリンピックから正式種目となったスケートボードの男子ストリート部門で優勝した堀米雄斗さんが、子どもの頃に父親とよく遊んだお気に入りの場所とのこと。広々とした園内には、桜などの木々に緑の葉がふさふさと繁り、やさしい影ができている。広い面積をふんだんに使ったアスレチック遊具もある。何組かの親子が楽しそうに遊んでいた。こんなふうに無邪気に遊んでいる子の一人が、いつか自覚的に研鑽(けんさん)を積んでオリンピック選手になることもあるのかと思うと感慨深い。

大島小松川公園

大島小松川公園

 競技としてのスケートボードは、今回のオリンピックで初めて見た。競技会場には、階段や手すりがあり、どこかの街の設備を切り取ってきたかのような舞台が新鮮だった。手すりの上にスケートボードで飛び乗って、滑り降りたりするのである。街角での遊びがスポーツ競技として発展したことを、この舞台が如実に伝えている。

園内のアスレチック

園内のアスレチック

 人が往来する街の階段でそんなことをする人がいたら、周りの人も危険だし、器物も破損しそうでハラハラすると思うが、競技としてそれを眺めるのは、ハラハラはするけれど、とても眩(まぶ)しい。自分がたとえ若かったとしても、決して行うことのできない競技であることは間違いない。スポーツ観戦というのは、自分では果たすことができないだろうという諦念を含んだ憧れの感情を刺激されることではないかと思う。そのスポーツに惹(ひ)かれる部分がなければ、熱心に見たりはしない。
 そして、より深く知ることで、より強く惹かれていくのである。オリンピックは、未知の競技の面白さを知る希有(けう)な機会である。新型コロナウイルスの感染拡大によって緊急事態宣言が出ている中での東京でのオリンピック開催は不安だが、国内で開催されるオリンピックを体験できるのも、自分にとってはこれが最後かもしれない。パラリンピックも含めて、最後まで見守りたい。
 公園から数分で行ける荒川まで歩いた。高層マンションの脇をすりぬけると、かすかに海の香りがして、視界が一気に開ける。桜並木になっている土手を上がると、ふさふさした緑の向こうに川が見える。
 淡い緑色の鉄橋と長い長い高速道路の高架が、薄曇りの空の下で交差して絵画のように美しい。川岸前の道は、車両は進入できないようになっていて、自転車やランニングの人が時折通りすぎる。

荒川と鉄橋

荒川と鉄橋

 川岸には自分よりも背の高い葦(あし)や芒(すすき)がぎっしりと生えていて、川岸前の道まで降りていくと川は見えない。しかし都営新宿線の架橋の下の斜面はコンクリートで固めてあり、川岸に降りることもできる。湿地帯で鳥が餌をつついていた。湿地のぼこぼことした穴は、月のクレーターのようだが、紛れもなくなんらかの生き物がいる証しである。真夏、私たちは生きている。

世界中が自由席であるような心地で曇り日の蟬を聴く
                     東直子

                 (歌人・作家)

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