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言ノ葉ノ箱
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高校生の短歌にふれる

2021/8/30

 8月の初め、入道雲がくっきりと浮かぶ夏空の下、和歌山県で第45回全国高等学校総合文化祭が開かれた。「紀の国わかやま総文2021」と名付けられたイベントで、全国から演劇や合唱、吹奏楽など、様々(さまざま)な高校の文化部の交流が行われる中、私は、有田市で行われた文芸部門の短歌の分科会の講師として参加した。

和歌山に向かう車窓から見えた夏雲

和歌山に向かう車窓から見えた夏雲

 短歌の分科会に参加するのは、各県の代表者1名のみ。午前中は、既成の短歌5首をフレーズごとに分けてシャッフルし、再構築するワークショップを行った。40人ほどの参加者全員がこの日初めて会ったと思われるのだが、5、6人のグループに分かれて一首を作り上げる作業の中で、うちとけて語りあう姿が見られたのは、嬉(うれ)しかった。

一瞬だけ交わることになったけど十年来の友人のよう
                    小林真緒

 この日のもう一つの課題である、「和歌山行きを題材にした短歌」の中の一首である。小林さんは、茨城県から参加した。希有(けう)な交流の喜びがつまっている。

分科会ワークショップ

分科会ワークショップ

 一方でこんな歌もあった。

消毒液が染みて見えない傷を知る後ろめたさの消えぬ旅路で
                    後藤匠人

 作者の後藤さんは宮崎県からの参加。旅の途中で、そして有田市の会場でも、何度も手指の消毒をしたことだろう。移動する度に消毒液を使うことが日常となったが、時々ぴりりと痛みを感じることがある。見えない傷があることを知覚すると共に、遠距離を移動するということに対する後ろめたい気持ちも刺激されるのだ。コロナ変異株による感染が拡大する中でのイベントに多くの迷いが伴う。

総文祭の冊子

総文祭の冊子

 総文祭の文芸部門の作品集の中から、講師賞として私は次の作品を選んだ。

「久しぶり」続く言葉を迷う間に揺れる雪虫「寒くなったね」
                     稲田凜

 稲田さんは、広島県からの参加である。「久しぶり」「寒くなったね」という他愛(たわい)もない会話の間の、一瞬の戸惑いを繊細に表現している。ちょっと照れくさくて、面はゆくて、何を話したらいいかわからずにちょっと焦っているようなあの感じが伝わる。そこに雪虫が飛んできたことで冬の到来を察知し、「寒くなったね」という言葉に繋(つな)がったのだ。広島にも雪虫が飛ぶのだと、稲田さんから教えてもらった。

車窓から夜景を見ている帰り道自分も誰かの夜景の一部で
                    後藤匠人

 題詠「道」の作品の中から講師賞に選んだ歌である。夜景の光は、そこに生きている人の営みがあることの証しである。自分が今いる場所を、もう一つの遠い視点で捉えた構図が素晴らしい。
 短歌という詩型が、高校生たちの揺れる心の一端を伝えるよすがとなった。
                 (歌人・作家)

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