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言ノ葉ノ箱
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水と陸の間を生きる

2014/6/24

 北海道旭川市に講演に行った折、旭山動物園に立ち寄った。この日の旭川は、6月上旬にもかかわらず真夏のような日差しが降り注ぎ、日中は30度をゆうに超えた。ただし、同じ30度超えでも、本州に比べて、湿気がかなり低いため、汗がだらだら流れるような不快な感覚はなかった。
 旭山動物園は行動展示といって、園内の動物たちの行動を間近で観察できるように工夫されている。テレビでも放映されて、ずっと見たいと思っていた、円柱の水槽(マリンウェイ)をくぐり抜けるゴマフアザラシの様子を初めて見た瞬間、思わず声がでた。

マリンウェイのゴマフアザラシ

マリンウェイのゴマフアザラシ

 水をたたえた円柱に潜り込んできたゴマフアザラシは、白い斑(まだら)模様のおなかを見せて垂直に浮かび、水の視覚作用によってぶわんとふくらむ。かわいくておもしろくて、みなどよめきながらそれを見つめた。アザラシの方でも、人間が喜んでいるのを知っていてサービスするかのように、何度もやってきてはくぐり抜けていた。その顔は、ほのかに笑っているようだった。
 この園には「もぐもぐタイム」と呼ばれる給餌の時間があり、餌を食べる動物の様子が間近で観察できる。ホッキョクグマの「もぐもぐタイム」はとてもダイナミックで、水中に放たれた魚に向かって飛び込む姿は圧巻だった。水にそよぐ白い毛は草原を駆け抜ける馬を髣髴(ほうふつ)させ、陸上にいるときよりもずっと生き生きとしていて、凜々(りり)しい。ホッキョクグマにとって、泳ぐことは「生きること」と直結しているのだ。水の中でぱっちりと目を開けて、陸にいるときよりも素早く移動するカバを見た時もそう思った。

ホッキョクグマ

ホッキョクグマ

 水のトンネルの下から、水中をすいすい泳ぐキングペンギンを見ていると、天空を自由に飛び回っているとしか思えなくなる。陸の上にいるときは、目を閉じて微動だにせず、飼育員が差し出す餌を拒否するなど、ぐったりしていたが、水の天空をゆく彼らは、たいへん涼しそうだ。
 水と空気を仕切る透明なガラスによって、私たちは水の中の動物の世界を、こんなにも間近で見られる。ガラスという物質の神秘をあらためて思う。

キングペンギンの遊泳

キングペンギンの遊泳

ペンギンの輝く胸の手ざはりを飼育係のわれは
知りをり             中西輝麿

 行動展示ではかなり近くで動物を眺めることができるが、さすがに直接触ることはできない。あの真っ白な、きれいな胸の「手ざはり」を知るのはごく限られた人なのだ。作者自身もペンギンと同じポーズで胸を張っているようである。
 高齢のため緑内障を発症して、目が全く見えなくなったゴマフアザラシがいた。水と陸を元気に行き来し、皮膚にもつやがあり、飼育員が鼻先に下げた魚を器用に食べていたが、自然界ではまず生きてはいられないだろうと思い、少し切なくなる。ここは守られた世界なのだ。

我を遠く離れし海でアザラシの睫毛は白く凍り
つきたり             吉川宏志

                 (歌人・作家)

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