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言ノ葉ノ箱
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三陸海岸の船と鉄道

2014/8/29

 浄土ケ浜、という名前に以前から魅(ひ)かれていた。「浄土」という言葉のつく場所とは、どんなところなんだろう。想像は膨らむばかりである。この浜の近くに龍泉洞という名の、地底湖をたたえる湖があることも知り、魅力を感じていた地域だった。夏休みを利用して行ってみようと計画していた矢先に、東日本大震災が起きた。浄土ケ浜は、岩手県の太平洋側の三陸海岸にあり、大きな被害を受けた。名前に憧れて、という観光客気分の人間が踏み入れてはいけないような気がして、訪ねることを諦めていた。
 だが、震災から3年以上の月日が過ぎ、浄土ケ浜近辺の宿泊施設などがリフォームを済ませ、ほぼ普段通りの営業となったことが確認できたため、この夏、訪ねた。

青の洞窟(筆者撮影)

青の洞窟(筆者撮影)

 三陸海岸は、南部の、沈水によるリアス式海岸と、北部の、隆起型の海岸とに成り立ちが分かれている。その境目にある浄土ケ浜は、独特の形状の岩が連なり、「浄土」と呼ばれる神秘性があるのだ。神秘性といえば、浄土ケ浜の海岸から、サッパ船と呼ばれる小型の漁船で入っていくことのできる「青の洞窟」で見た海の色が忘れられない。
 岩の大穴に船で中に入ると、明るいエメラルドグリーンに包まれる。洞窟の中に差し込んできた朝日が深い海の水を奥まで照らすことで現れた色が、洞窟内部の岩肌を照らして、天然の美しい劇場となっているのである。この色は、洞窟の外側からは見えず、中に入らないと分からない。中に入れば自分の身体ごとその色に染まるので、「見た」というより「体感した」という感じの方がぴったりくる体験だった。

魚でも鳥でも人でも無くなって暮れてゆくまで
海をみている              松尾タイ

浄土ケ浜の海猫

浄土ケ浜の海猫

 沖にはたくさんの海猫がいて、ミャアミャアと独特の声で鳴き交わしていた。海の中には彼らの食料となる無数の魚が泳いでいるのだ。海に浮かんで美しい海の色に染まっているときは、この歌と同じように、彼らの気配を感じつつもその存在の境界線が消え、時間感覚もなくなり、たゆたう海の一部となって眺めていたのだった。
 海猫はとても人懐っこく、サッパ船の人がくれた餌を空に差し出すと、サーッと飛んできて、指先の餌を嘴(くちばし)で直接さらっていった。また、海に漕(こ)ぎ出した途端、船首に飛び降りてきて、まるで自分が先導しているかのようにとどまる者もいた。鳥も、乗船を楽しむことがあるのだ。

三陸鉄道と三陸海岸

三陸鉄道と三陸海岸

 三陸海岸に沿って走る三陸鉄道にも乗った。200メートルの断崖を誇る北山崎の最寄り駅の田野畑駅から乗ったのだが、若い女性駅員が切符販売などの改札業務から売店や喫茶店まで、すべて1人でテキパキと仕切っていたのには、感心してしまった。
 三陸鉄道も震災で甚大な被害を受けたが、今年の4月に全線が開通した。夏の雨が降り続く中、NHKのドラマ「あまちゃん」の舞台となった久慈駅まで、海沿いの単線列車の揺れを味わったのだった。
                 (歌人・作家)

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