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言ノ葉ノ箱
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馬駆ける町

2014/11/8

 先日、生まれて初めて競馬場へ行った。東京都の府中市にある東京競馬場である。芝生の敷き詰められた広い競技場に、爽やかな秋の風が吹き抜ける。まわりには、バラ園や、子どもが楽しめる遊技場があり、観覧席のある建物には、ファストフードからステーキまで各種の飲食店が軒を連ねている。競技場が一つの町のようである。

ポニーの歩く中庭

ポニーの歩く中庭

 さらに競馬博物館が併設されている。競馬の歴史や競走馬について詳しく知ることができ、今秋は、英国ジョッキークラブの絵が展示されている。この日は特別企画として版画家の山本容子さんによる絵画解説と、大萩康司さんのギターと波多野睦美さんの歌唱を楽しむライブがあった。波多野さんの透明で力強い歌声の背後に英国の競馬場の馬の姿がゆったりと映し出され、陶酔した。
 この時の山本さんの解説で、3人の画家に描かれた、エクリプスという馬のことを知った。18世紀の競馬黎明(れいめい)期に圧倒的な走りで一度も負けたことがなく、対戦相手が尻込みするほどの強さを誇ったという。現在、競馬場で活躍するサラブレッドのほとんどがこのエクリプスの血を受け継いでいるのだそうだ。

スクリーンのある競技場

スクリーンのある競技場

 エクリプスとは日食を意味する。日食の日に生まれたからそう名付けられた。1本だけ白いハイソックスを履いたような脚が特長の栗毛(くりげ)の馬は、1枚の絵の中の晴天の光を浴びて艶めき、永遠に動かない。

馬は二歳 もはや女王のつや光る脚、草、人、綱、胸、つらぬかれ            東直子

 2歳で優勝した牝馬の姿をテレビで見て詠んだ歌である。黒光る褐色の毛で疾走する姿に魅入られた。人間の2歳だと、やっとよちよち歩けるようになるくらいの赤ちゃんなのに、馬はこんなに立派に走れるようになるのか、と感心してしまったのだ。ブエナビスタ、という名の馬で、スペイン語ですばらしい景色、という意味を持つ。強い牝馬として活躍したブエナビスタは、今は引退し、新たなサラブレッドの母となっていくことだろう。

ゴールを目指す馬

ゴールを目指す馬

 馬券、正式には勝馬投票券も、初めて買ってみた。ものすごく負けてお金がなくなるイメージがあって恐れていたのだが、1枚100円から買えるのだった。100円とはいえ、命運をかけた馬を見守るのは、力が入る。見守る私たちは誰一人として、あの研ぎ澄まされた身体の馬たちより速く走ることはできない。馬の上の騎手に魂をうつして、祈るのだ。走れ、走れ、と。

駆け抜けし馬の肋のあらはなる一瞬はやる息を思ひぬ
                  蒔田さくら子

 最終レースで、人気の馬を軸に賭けたのだが、思わぬ番狂わせがあり、予想は全て外れてしまった。皆があーあ、という顔をする中、ふっと笑む人があり、社会の縮図を見るようだった。

勝ち馬も負けたる馬もさびさびと喧騒のなかにからだ光らす                社澤光一郎

                 (歌人・作家)

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