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空が美しいだけで
2015年の年越しは、東京の自宅でのんびりと過ごした。家族とお祝いのお屠蘇(とそ)を交わし、お節料理の朝食を食べたあと、初詣に出かけた。
お正月は、さすがにあらゆる会社が休んでいて、街はとても静かである。車の交通量もいつもより少ないので、空気がとても澄んでいる。空を見上げると、早朝雪をちらつかせていた重い雲が切れて、きれいな青空がのぞいていた。青い空のテーブルの上にかためておいた白い粉に、勢いよく息をふきかけて飛ばしたような、独特の形の雲が浮かんでいる。空をじっとながめていると、自分も青空の色の世界に浮遊しているような、楽しくて、気持ちよく、さらには少し不安な心持ちにもなってくる。
大空を風わたるとき一枚の紙鳴るごとくわが胸も鳴る
五島美代子
大空を感じながら受ける風は、雄大である。人間社会の中でさまざまなことを気にかけて生きている身体が、何も考えず思い切り開放されるような感覚になる。「私」という一人の人間の小ささを痛感することでもある。ひらひらと風に舞い、かすかな音をたてる一枚の紙のように、無力なのである。しかし無力になれるいさぎよさ、気持ちよさもまたある。大空とともにあるこの世界に対しての希望が感じられる歌である。
空が美しいだけでも生きてゐられると 子に言(い)ひし日ありき 子の在りし日に
同
五島は、若い娘に先立たれてしまった。繊細な心を持つ子を励ますように言った「空が美しいだけでも生きてゐられる」という言葉を、今度はうちひしがれた自分自身に向けてみたのだろう。
ただ一人の束縛を待つと書きしより雲の分布は日々に美し
三国玲子
ここで描かれる「束縛」とは、好きな人と二人きりで過ごす、甘い時間を指しているのだろう。デートの約束を待っているのかもしれないし、婚約のことかもしれない。いずれにしても、心身をその人にゆだねる感覚を「束縛」という一見ネガティブな言葉で提示したのち、下の句の空の描写で、肯定的な響きへと転換してみせ、見事である。心待ちにしている日が近づくにつれ、雲の広がる景色がどんどん美しいものに感じられていく。
そういえば気持ちに余裕がないとき、景色を美しいと感じることができなくなってしまう。そうなると、乾いた心がさらに殺伐としてしまう。お正月の空がことさら美しいと感じたのは、今は休んでいていい、という安心感からかもしれない。
明るい冬空の下、椿の木に赤い花がいくつも開いていた。胸に、小さな火が灯(とも)った気がした。
寒つばき深紅(しんく)に咲ける小(ち)さき花
冬木の庭の瞳(ひとみ)のごとき 窪田空穂
(歌人・作家)
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