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言ノ葉ノ箱
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水をめぐる心

2015/3/6

 年明けすぐに降った雪がまだ残る、京都の貴船神社を訪ねた。出町柳から叡山電鉄に乗って30分ほど揺られて到着する貴船口から、さらに30分ほどかけて歩いていったところにある。この神社は、神武天皇の母親の玉依姫命(たまよりびめ)が、国を豊かに潤す清らかな水の源をもとめてやってきたことからこの名が付いたといわれている。姫は、大阪から黄色い船に乗っていくつもの川をさかのぼりながらこの地にたどり着いたのだ。以後、水の供給を司(つかさど)る神として、命を見守っている。

水占齋庭(筆者撮影)

水占齋庭(筆者撮影)

 「神水」と書かれた立て札に、「常に自ら進路を求めて止まざるは水なり」「障害に逢い激しくその勢力を百倍するは水なり」などと水を讃(たた)えていて、水の描写のかっこよさにしびれてしまった。

ものおもへば沢の螢もわが身よりあくがれいづる魂(たま)かとぞみる

 和泉式部がこの地に来て詠んだ和歌である。沢の上を光りながら飛ぶホタルが、思いが高じている自分の身体から飛び出した魂なのではないかと思って見ている。魂の化身として、ホタルが好きな人のそばに飛んでいくことを夢みたのだろう。このとき、男の声で次の歌が聞こえたという。

おくやまにたぎりて落つる滝つ瀬の玉ちるばかり物なおもひそ

 あまり思い悩むことはないよ、という内容の、貴船明神からの返歌だそうだ。神の水の流れる社ならではのおおらかさがある。

水占みくじ

水占みくじ

 社内に、深い緑色のコケに覆われた石の塀に囲まれて、透き通った水が流れている場所がある。「水占齋庭(みずうらゆにわ)」と呼ばれ、ここでおみくじの占いの結果が分かるのである。巫女(みこ)さんから買うおみくじは、ノートサイズの一枚の白い紙なのだが、そこには各項目の枠線があるのみで、占いの言葉は書かれていない。そこでこの紙を水占齋庭に浮かべると、じわじわと占いの言葉が浮き上がってくるのである。親子連れの子どもや若い女性、年配のご夫婦など、様々な年代の参拝客がこの占いをしていたが、乱暴に紙を放り投げる人は一人もおらず、皆水の上に神妙に紙を乗せていた。

運命を水にうかべる ゆっくりと明日の夢が告げられてゆく

東直子


水に浮かんだ文字は光に白く透きつめたい言葉を空にとかした


雪解け水に濡れた参道

雪解け水に濡れた参道

 結果は、小吉。願望は気長に待て、病気は遅くても治る、うせ物は物に隠れて出てこないが、学問は安心して勉強していいらしい。とにかく堅実に暮らしなさいよ、ということのようだ。おみくじは未来を占うものだが、基本は、日々の生活の背筋を伸ばすための戒めのためなのだと思う。
 この日は、2月とは思えないような、明るくあたたかい陽(ひ)が射し、屋根に積もった雪が解け、透明な水滴となって地上に落ちている。奥の院へと続く参道も、雪解け水でしっとりと濡(ぬ)れていた。(歌人・作家)

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