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時の番人
今年の正月は、一足飛びに春がやってきたようなあたたかい日が続いたが、1月半ばを過ぎて、突然寒くなった。都心でも雪が積もったが、朝になって雨にかわり、大方は解けてしまった。
表参道駅から歩いて10分足らずのところにある根津美術館。その庭に、街中ではとっくに消えてしまった雪が解け残っていた。傾斜を利用した広大な敷地の中心に池があり、いくつもの茶室や石像、仏像が配置され、緑豊かである。東京の中心地にいることをすっかり忘れてしまう静けさに包まれている。木々に囲まれた細い道は迷路のようで、ここでかくれんぼをしたら、ずいぶん楽しいだろうな、と思いながらつめたい空の下を歩いていると、自然に体が火照ってくる。
つめたい冬空の下の木々は眠っているように見えるが、どっしりとした幹は、そばを通るだけで安心感があり、あたたかみさえ感じさせる。美しい庭には、長い時間をかけて生きている生き物の気配が満ちている。そして同時に、職人の祈りの気持ちをこめて彫られた石像の永遠のほほ笑みが、命の移り変わりを受け入れ続けている。苔(こけ)むした仏像もあり、石と植物と人の想(おも)いとが一体化している、と感じたとき、かつて作った一首を思い出していた。
ほんとうのことかもしれないうわごとを黒き苔むす樹(き)がきいてくれた
何百年も生き続けている樹に、ひととき宿る苔。思春期の不安な感覚を呼び出すように作った一首だが、どんなときにも心をいやしてくれる力が、そこにはあるように思う。
この美術館は、戦前から存在する私立の古美術を中心とした美術館で、東武鉄道などの鉄道業に関わり「鉄道王」と呼ばれた根津嘉一郎の収集品を展示するために建てられた。茶人であった根津の収集品は茶道具をはじめ、水墨画や陶器、中国古代青銅器など、多岐にわたる。現在のモダンな建築は、新国立競技場にも関わっている隈研吾氏によるもの。吹き抜けの空間から、ガラス越しに垣間見える庭が神秘的である。美術館のチケットは、双羊尊という名のつく、2匹の羊が合体したようなデザインの青銅器をモチーフにしたもの。常設の展示室で見ることができる。紀元前の中国人が形作った、素朴な愛らしさのある羊の顔に見入ってしまった。
今月の企画展の「松竹梅」をモチーフにした美術品のコレクション展を眺めて新年への寿ぎに満ちた気分を満喫したあと、百椿図(ひゃくちんず)の華やかな絵柄に吸い寄せられた。江戸時代に流行したという園芸椿(つばき)が、鮮やかな色彩と斬新な構図で描かれた絵巻物である。遺伝的に不安定で、現存しない品種も多いとのことだが、絵巻の中では永遠に可憐(かれん)な花を咲かせている。それぞれのデザインがモダンで愛らしく、小物に印刷して傍らに置いておきたくなる。その気持ちを代弁するかのように、一つ一つの花に賛美の詩歌が添えられていた。
きみもいざはやゆきて見よこせやまのつら〓つばきはるすぎぬまに
徳川光圀
(歌人・作家)
〓は繰り返し
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