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いにしえの歌劇
2月11日から14日にかけて、東京の初台にある新国立劇場小劇場で、私が脚本を書いたミュージカル「姫神楽」が上演された。これは、「古事記」の中の、天岩戸(あまのいわと)のエピソードを下敷きに、オリジナルのストーリーを加えて展開させたものである。ミュージカルを上演した劇団BDPは、東京をはじめ、札幌、熊本など、その傘下に全国23カ所の子どもミュージカルがあり、幼稚園児から高校生まで、約500人が所属している。
「姫神楽」という今回のタイトルは「古事記」に登場するものではない。大学生のときに所属していた女性だけの劇団の名前なのである。実は大学生のときは、役者として舞台に立ったり、脚本を書いたりしたのだが、ミュージカルの脚本は、この劇団に提供したものが初めてだった。ミュージカルといえば、アメリカやイギリスなど海外でヒットした作品のイメージが強いが、日本人が日本で上演することを前提に考えたときに、古典文学が思い出されたのだった。
伊勢物語、土佐日記、源氏物語など、古くから伝わる日本の古い物語には、必ず和歌が登場する。恋する心が高まったとき、別離の悲しみに胸を塞(ふさ)がれたとき、喜びがあふれたとき、その気持ちを五七五七七の音韻に託してきた。この構図は、場面が盛り上がったときに朗々と歌い出すミュージカルによく似ていると思うのだ。つまり、物語の進行を示す地の文が普通にせりふをやりとりする部分で、長歌や短歌などの定型詩(歌謡)が、メロディー付きの歌に当たるのだと思う。そんなことを考えていたこともあり、日本の最も古い歴史書である「古事記」を題材にミュージカル作品を創作することを思いついたのだった。
神様の国、高天ケ原での須佐之男命(すさのおのみこと)の狼藉(ろうぜき)を恐れた天照大神(あまてらすおおみかみ)が岩戸に隠れたことによって生じた無明の世界。その危機を救ったのが神様たちの大笑い、という物語展開は、意表を突いている。困難を切り開くためには、努力に努力を重ねることが大切、という根性主義的な物語展開が一般的には多い気がするからである。しかし人の笑う声が光を取り戻すための鍵となる、ということは、平和で幸福な世界をつくるためのヒントとして今にも通じるのではないだろうか。私は、岩戸を開くきっかけを与える者として人間の少女たちを設定し、「姫神楽」と名付けた。少女の役者が多い劇団だから、という理由もあるが、一人ひとりは無力であっても機転を利かせて協力しあうことで新たな力を見いだす、ということを表現したかったのだ。それは、たった一行の言葉が、深く心を動かす可能性を秘めた短歌という詩型にも通じると思う。
八雲立つ出雲八重垣妻ごみに八重垣つくるその八重垣を
「古事記」に記された須佐之男命の歌。最古の短歌といわれている。高天ケ原を追放され、旅の途上で八岐大蛇(やまたのおろち)を退治したことによって櫛名田比売(くしなだひめ)という伴侶を得、出雲に安住の地を見つけたその感慨を詠んでいる。リフレインを多用し、新しいふるさととなる土地を寿(ことほ)いだ歌は、実に心地よく、清々(すがすが)しい。
(歌人・作家)
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