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人生の不思議さ
一昨年に出版した小説「いとの森の家」が、第31回坪田譲治文学賞を受賞することになり、先月、岡山市での授賞式に出席した。
坪田譲治氏は明治23(1890)年に岡山で生まれ、「風の中の子供」などの児童文学で知られる。その坪田氏を顕彰してつくられたこの賞は、子供から大人まで共有できる作品に与えられるとのことで、最初から児童文学として書かれた作品が受賞するとも限らない。
私の作品も、福岡県の糸島地方に住んでいた小学生の頃を題材に書いているものの、児童文学だという意識はなかった。思いがけないことでとても驚きつつ、非常に励まされる思いである。
授賞式は、地元の人を交えた文学イベントも兼ねており、俳優の紺野美沙子さんによる坪田作品の朗読が披露された。「エヘンの橋」や「生まれたときもう歯がはえていたという話」など、昭和の初め頃の子供のいる家族の生活が目前で繰り広げられるような、生き生きとした会話が楽しい。
中でも「金の梅・銀の梅」という話が心に染みた。金や銀の実のなる梅がある、となにげなくついたうそを信じこんだ子が、あるとき病気で目が見えなくなってしまう。うそをついた方の子は、うしろめたさを抱えながら、病気の子のお母さんに促されて普通の梅の木を金の梅と銀の梅だと言って手渡すのである。
自分が握った木に金や銀の実がなっていることを最後まで信じて、盲目の子は亡くなる。なんとも悲しい話である。うそをつくのはいけないことだが、想像の中で美しく輝く金銀の実を想像する喜びを与えてあげられたのは、よかったのだと思う。
文学は、時に虚構を描いて人の心を癒やし、喜びに変えてくれることがあるのだ。それは、坪田氏が目指した児童文学の根本でもあるだろう。
布団たたみ雑巾しぼり別れとす
和之
「いとの森の家」に引用した、死刑囚の俳句である。「異空間の俳句たち」という死刑囚の俳句作品を集めた本に収録されている。右の句は、刑が執行されることが決まった朝に作られた、辞世の句である。自分がこの世にいなくなることを覚悟して詠んだ生活の細部が、胸に迫る。私は14歳まで布団で寝ていた。今はベッドを使っているが、毎朝布団を畳んで押し入れにしまっていたことが濃密に思い出される。
授賞式の翌日、JR岡山駅近くにある吉備路文学館を訪ねた。この文学館は、中国銀行のバックアップによって運営されている。坪田譲治展が企画されていた。
いつも心にのぼって来る人生の不思議さ 書けないその不思議さ
展示されていた、坪田氏本人による揮毫(きごう)の言葉である。「風の中の子供」がヒットしたことによって、ようやく誰もが知る存在になったのは、彼が46歳の時である。それまで、家業を手伝ったり、小説家になるために上京したり、また戻ったりを繰り返し、子供もいる生活は窮乏していたという。
言葉になった彼の胸の中の「不思議」をかみしめながら、自分の中の「不思議」を表す言葉を探り続けたいと思った。
(歌人・作家)
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