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息づく食の道具たち
調理道具などを扱う店が軒を連ねる東京都台東区の「かっぱ橋」と呼ばれる地域は、漢字で書くと「合羽橋」となる。私財を投じて、水はけの悪かったこの地の治水を行った合羽屋喜八という人物にちなんでいる、というのが有力な説のようだ。
では「河童」は関係ないのか、というとそうでもなく、喜八の仕事を河童が夜な夜な手伝ったのだという。どうやら、人間の子どもたちにいじめられていたのを彼が助けたため、恩返しをしてくれた、という、浦島太郎のような背景もあるらしい。
合羽と河童。どちらも水にぬれても大丈夫なものだから、河童をもじって雨具のことをカッパと読んでいるのだと勝手に思いこんでいたが、ポルトガル語の「capa」を語源として江戸時代から使われていた言葉のようだ。カッパつながりは、偶然なのだろうか。その名前から、誰かが冗談まじりで組み立てた話が伝説となって残った、という流れを考えずにはいられない。
そのかっぱ橋に、先日出かけた。最寄りの地下鉄田原町の駅を降りてから数分で、この商店街に着く。歩道にはみ出るように食器類や、料理道具が並べられている。外国人の観光客も多い。陶器の専門店、ガラス食器の専門店、金属製品の専門店と、食器一つをとっても扱う素材の違う店舗がある。
ネオンの看板や、赤ちょうちん、ソフトクリームのオブジェなど、売られている姿を初めて見る物もあり、わくわくする。飲食店を経営する予定などないのに、この食器をそろえたらすてきだなあ、などと夢想してしまう。
秋葉原の電気製品、お茶の水の楽器店、神保町の古書店、という具合に、東京には専門店が軒を並べる地域は他にもあるが、かっぱ橋はひときわマニアックである。食品サンプルを扱う店に一歩入ると、偽物の食品の輝きに圧倒される。
永遠に腐らない、いちごや林檎(りんご)や秋刀魚(さんま)や鯛(たい)がつやつやした肌を見せ、鎮座している。ジョッキに注がれたビールは、注がれた直後の、美しい白い泡をふっくらと保っている。三色のおまんじゅうのサンプルには「押さないで下さい」という注意書きが添えられていたが、つい、押してしまいたくなる気持ちは、よくわかる。あまりにも本物そっくりなので、指で触ってほんとうに偽物なのか、確かめずにはいられなくなるのだ。
蠟(ろう)を使って巧みに表現された食品サンプルが日本独自の文化だと知ったのは、この街で売られるサンプルが外国人のお土産として人気を博している、というニュースを聞いたからである。明治維新後、急速に西洋化していく中で普及していった新しい料理を具体的に伝えるために発展していったと思われる食品サンプル。フォークが宙に浮いた状態のナポリタンを見たときは、おかしさとおどろきが同時に起こったものだ。
すでに日本人の誰もがスパゲティやカレーがどういったものが分かっている今では、サンプルを置く店も少なくなった。
こんなにおもしろいもの、絶滅したりしませんように…。
アルミニウムの透き間を抜けてまた抜けて卵あわだつ、こころきわだつ
東 直子
(歌人・作家)
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