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言ノ葉ノ箱
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火山の苔

2016/8/31

 8月、ブラジルのリオデジャネイロでのオリンピックが始まり、終わった。卓球やバドミントン等、緊迫した試合にライブ映像で見たものもあり、暑さもふき飛んだ。
 大会の最後の方に行われた新体操女子の演技は、スポーツ選手たちの興奮を美しい夢へと昇華したような演技で、うっとりしてしまった。私は、野球の「侍ジャパン」、女子サッカーの「なでしこジャパン」という呼称が、男性性、女性性を強制しているようで違和感を覚えるのだが、日本の新体操団体のチーム名につけられた「フェアリージャパン」という名称は、なんだか好きである。彼女たちは本当に可憐(かれん)で、フェアリー、と呼ぶにふさわしい。
 結果的にメダルは取れなかったが、開催国に敬意を表した音楽と色彩でのリボンの演技も、日本国旗のような赤いハートの衣装のクラブフープの演技も、いつまでも見続けたい華やかさと躍動感に満ちていた。他の国の新体操の演技もみな、それぞれ個性があって素晴らしく、この競技に関しては、勝敗の行方は二の次でいいと思ってしまう。血のにじむような努力による、信じられないほどしなやかな体の選手はみな、「フェアリー」だった。
 

箱根美術館の苔庭

箱根美術館の苔庭

 先日訪ねた箱根で、フェアリーが現れるとしたらこんな風景だろうな、と思える場所に出会った。箱根美術館の美しい庭である。夏の樹々(きぎ)の緑がつくる木漏れ日を浴びて、さまざまな種類の苔(こけ)が覆いつくすその空間は、人工的に造られた庭ながら、人類が生まれる前の原始的な世界を覗(のぞ)くような気持ちになった。苔に手で触れると、思いの外やわらかく弾力があり、大変気持ちがよかった。これなら、フェアリーの繊細な素足で跳びはねても、きっと大丈夫だろう。
 箱根美術館には、小田急線の特急ロマンスカーと箱根登山鉄道を利用して強羅駅で降り、箱根登山ケーブルカーに乗り換えて到着した。美術館のすぐそばに強羅公園がある。こちらは日本初のフランス式整型の庭、だそうだ。左右対称で幾何学的に池などが配置されたモダンな造りである。涼しい飛沫(しぶき)を上げる噴水を背景に、色とりどりの薔薇(ばら)が咲いていた。
 

箱根ロープウェイ

箱根ロープウェイ

 滝廉太郎作曲、鳥居枕作詞の「箱根八里」の中で、「天下の険」とうたわれた難所であった箱根。今は保養地として親しまれている強羅も、かつては岩ばかりの荒涼とした場所だったという。箱根の山は、火山なのだ。
 ケーブルカーで終点の早雲山まで上ると、ロープウエーがあり、昨年春の火山活動により、立ち入り規制区域となった大涌(おおわく)谷にも通じている。一時は運休されていたが、現在は運行している。乗車する時、山頂付近の噴気ガス吸入予防のための医療用ウエットタオルが配られた。
 

煙立つ大涌谷

煙立つ大涌谷

 ロープウエーから眺めた大涌谷は、淡い緑色に染まった岩肌からもくもくと水蒸気が上がり、江戸時代に地獄谷と呼ばれていたこともさもありなんと思える、迫力満点の景観だった。ここを訪ねた与謝野晶子もこんなふうに詠んでいる。

行方なくはてぞなりゆく奥箱根大涌谷の業のけむりも

                 (歌人・作家)

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