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国を超える人の心
3歳から10歳まで、父の仕事の都合で福岡県に住んでいた。最初に住んだ福岡市内の町は海が近く、よく遊びに行っていた。海の向こうの陸地は韓国だよ、と教えくれたのは、誰だったのだろう。
去る9月22日、アクロス福岡(同市中央区)で行われた福岡女子大や韓国文学翻訳院など共催のイベント「日本と韓国の女性作家はいま」に参加した。韓国からは金仁淑(キムインスク)さんと千雲寧(チョンウニョン)さんが参加し、書肆侃侃(しょしかんかん)房(同)の田島安江さんの進行により、座談会を行った。
子どもの頃に知った「海の向こうの国」に住む人と、こうして正式な場で語り合うのは、初めての経験である。イベントのタイトルには「三人が語る、書くことのたのしみと作家としての生き方」という副題が付いており、作家としての出発点やこれまでの経緯について語り合った。
今年、千さんは「生姜(センガン)」(新幹社)、金さんは「アンニョン、エレナ」(書肆侃侃房)と、日本語の翻訳本が相次いで出版されている。2人とも韓国での人気作家だが、日本での出版は初めてである。「生姜」は、「拷問技術者」として指名手配され、11年間、屋根裏部屋での逃亡生活をしていた実在の人物をもとにした小説。一方、「アンニョン、エレナ」は、喪失体験を抱えたさまざまな登場人物が模索する短編集。いずれも、韓国のシビアな現実を背景としてぶつかり合う家族の姿が印象的に描かれている。
1971年生まれの千さんは、延世大在学中に作家になることを決意し、卒業後ソウル芸術大の創作学科へ進み、さらに高麗大の大学院で国文学を専攻した。日本の小説や漫画などの文化にも精通していて、日本の現代作家と通じるものを感じる。
金さんは私と同じ63年生まれだが、学生時代の80年代は韓国の改革の時代で、みな学生運動をしていたと言う。同じ年でありながら日本で生まれ育った私には、一世代前の時代を懸命に生きた人なのだ、という感想が湧いた。20歳で小説家としてデビューし、30年以上書き続けているが、「問いを発するために書いている」と断言する。
「アンニョン、エレナ」の「山の向こうの南村には」という短編では、寒村で何度も妊娠を繰り返し、壮絶な人生を送った女性が描かれているが、金さんの実母がモデルだと聞いて驚いた。読み書きに疎く、文学には全く感心がなかったそうだが、亡くなった後に金さんのことが掲載されている記事をスクラップしたノートが見つかり、母に対する認識が変わったとコメントしていた。
福島県の貧しい村に生まれた野口英世の母親が、大人になって覚えた仮名文字で、米国に住む息子に宛ててたどたどしくつづった手紙のことを思い出した。「畦道で子を生み、農具でへその緒を切り、その直後、まだ草取りしていない畝があれば全部取り除く。それが農家の女というものだ」と描かれる金さんの小説の女と、英世の母の時代が重なる。
異なる国の生活とその心を、生きた人間の体を通じて直(じか)に伝えてくれるのが文学なのだと実感し、深く考えさせられた会だった。今後も交流を続けたい。
(歌人・作家)
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