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言ノ葉ノ箱
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離島の祭り

2016/12/1

 先日、沖縄の八重山諸島を訪ねた。11月に入っていたにもかかわらず、日中の日差しは真夏のようにまぶしく、暑いほどだった。
 飛行機で石垣島に向かい、定期船を利用して小浜島、西表島、竹富島等を訪ねた。
 角(つの)に花をつけて町を練り歩く水牛の車が有名な竹富島だが、私が訪ねた日は、お休みだった。水牛車だけでなく、観光バスや飲食店、観光センターなども軒並み閉店していた。なぜかというと、この日は島をあげてのお祭り、種子取(たねどり)祭のハイライトとなる奉納芸能が執り行われていたからである。
 

竹富島の白い道

竹富島の白い道

 普段、水牛車を走らせたり、観光バスを運転したり、店舗を構えている人たちが、みな神社での祭りに参加しているのだ。町中は静まり返っていて、サンゴの砂がしきつめられた白い道を歩いているのは、観光客と思われる人々と猫ばかり。明るいオレンジ色の屋根の上には、沖縄の神様シーサーが青空の下で大きな口を開けていて、話しかけてくるよう。道をゆく猫たちは、自然に近づいてきて人なつっこい。
 青空、オレンジの屋根、シーサー、サンゴの石垣、猫、白い道。静けさもあいまって、なんだか天国を歩いているような気分になる。ここも日本という国の中の一つに違いないが、全く別世界だな、と思う。物理的にも、とても遠い。東京から沖縄本島までの距離は1600キロだが、そこから八重山諸島は400キロ以上離れている。同じ沖縄県だが、東京と大阪くらい離れているのだ。台湾の方が沖縄本島より近い。飛行機も高速船もなかった時代の心理的な遠さは、相当なものだっただろう。
 透明な水をたたえる美しい海に囲まれた小さな島に生まれ、そこで生涯を過ごす人々は、その島に代々受け継がれてきた文化をこころから慈しんでいる。年に一度のお祭りは、我々のような、よそからふらりとやってきた者のためではなく、島に住む人々自身のため、自分たちの先祖のため、そして、島の未来のためにあるのだ。
 

種子取祭

種子取祭

 とはいえもちろん、種子取祭の奉納の舞台は、誰でも無料で観覧することができる。島民も観光客も一緒くたになって簡素な舞台の前に集まり、島の賑(にぎ)わいがこの舞台の周りに集中していた。私が覗(のぞ)いたときは、「ペーク漫遊記」というお芝居が繰り広げられていた。沖縄言葉での会話は、全く意味がわからなかったが、カラフルな衣装をまとった男性の役者たちにはコミカルな雰囲気があり、不思議に楽しめた。あとで調べたら、不条理なふるまいをする役人を戒め、若者たちの純愛を応援する内容だったらしい。
 

仲筋井戸

仲筋井戸

 祭りを抜けてふたたび白い道を歩いていると、巨大な井戸に遭遇した。かつてこの島の神とされていた人が飼っていた犬によって発見されたというこの井戸は「仲筋(なかすじ)井戸」と呼ばれ、神事に使われるとともに貴重な飲料水の供給源として利用されてきたという。今は石垣島からの海底送水を利用しているため、日常的には使われていないようだ。大きな穴に溜(た)まった水が、青空を映していた。

青空の井戸よわが汲む夕あかり行く方を思へただ思へとや
                   山中智恵子

                 (歌人・作家)

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