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半島の生と死
福岡県の西にある半島、糸島地方を舞台にした小説「いとの森の家」(ポプラ社)をきっかけに、一昨年末より「糸島観光大使」をつとめている。今月、福岡市内で行われた短歌のイベントにからめて、若手歌人7人を連れて糸島に足をのばした。
私も実際に1年あまり糸島に住んでいたのだが、怡土(いと)城という古城のあった地域には、昔から変わらない緑の山と田園が広がっている。
「いとの森の家」の物語の鍵となる「おハルさん」というおばあさんにはモデルがいる。「死刑囚の母」と呼ばれ、文通や拘置所への訪問を続けた白石ハルさんである。森に向かう道の途中にあった白石さんが暮らしていた家はすでになく、空き地となった場所から遠くを見渡すと、きれいな形の山が見える。富士山に似ていることから「糸島富士」「筑紫富士」などと呼ばれる可也山である。それほど高くはない山だが、糸島全域から眺めることができる。古代に防人(さきもり)として東国から連れてこられた人も、故郷に想(おも)いをはせつつ眺めたことだろう。
韓衣(からころむ)裾に取りつき泣く子らを置きてそ来ぬや母(おも)なしにして
他田舎人(をさだのとねり)大嶋
着物の裾に取りついて泣いている子を置いて来た。この子たちの母親はすでに死んでしまったのに、という痛切な父の心を詠んでいる。3年の任期の後は、自力で戻らねばならず、帰路の途中で命を落とす者も多かったという。裾を握りしめた幼い手をほどいた時が、その子の手に触れた最後になるかもしれない、と思ったことだろう。現代とは違う、命がけの単身赴任である。
糸島で発掘された平原(ひらばる)遺跡では、王の証しである銅鏡片が、直径50センチ近いものも含めて40面も見つかっている。その他の埋蔵品には耳環などアクセサリー類が多く、女性の墓であったとされるため、卑弥呼の墓だと推察する説もある。一度細かく砕けた鏡の一部は、1500年の時を経て丁寧に復元され、伊都国歴史博物館(福岡県糸島市)に展示されている。
遺跡のある田園地帯から車で20分ほどで海岸に出ることができる。海岸は、春の陽光にさそわれるように若い人たちでにぎわっていた。その海の中に白い鳥居が立っており、その先に二つの大きさの違う岩が見える。二見ケ浦の夫婦岩で、桜井神社のご神体としてしめ縄がかけられている。夏至のころ、二つの岩の間に落ちる夕日が、それはそれは美しいという。
沖へと続く海はとても澄んでいて、マリンブルーとエメラルドグリーンがとけあい、清々(すがすが)しい。この海を越えて大陸に渡り、戦に挑んだ勇ましいお姫さまの話が伝わる。急逝した夫に代わり、身重だったにもかかわらず、自ら男装して戦ったという神功(じんぐう)皇后である。
出陣前に鎧(よろい)を井戸の水に浸すとたちまち真っ赤に染まったことで、配下に勝利を確信させたとの言い伝えがある。この伝説が「染井」という地名にもなって残っている。水を吸って様々な色の花を咲かせる花と、井戸で赤く染まった鎧。まぶたの奥でイメージが重なりあう。
あたらしい身体にふれてきた身体どこにもゆかぬ桜また咲く
東 直子
(歌人・作家)
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