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言ノ葉ノ箱
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遊びをあそぶ

2013/3/28

 先日、四谷にある東京おもちゃ美術館を訪ねた。廃校になった学校を利用してNPO法人が運営する、古今東西のおもちゃを集めたミュージアムである。昔の懐かしい木のおもちゃや、かわいらしい造形の舶来物など、眺めるだけでも心が浮き立つ。実際に手に取って遊べるものもある。

昭和30年代の日本の玩具

昭和30年代の日本の玩具

 先日、とあるオセロのイベントに関わったことで、オセロ名人の坂口和大(かずひろ)さんと知り合いになり、美術館で定期的に開かれているオセロイベントに誘っていただいたのだ。イベントでは、願い出ればオセロ九段の坂口さんと対戦できる。坂口さんは、何人もの人を同時に相手をしてオセロを打つ。私もその一人として対戦してもらった。私は、20年くらい前に公式の試合に出たことがあり、オセロ2級を承認してもらったのだが、名人の前にあっけなく完敗した。隣で果敢に挑戦していた子どもたちも、途中で自分の色の石が全部なくなるという、容赦のない負けっぷり。しかし、最後まで諦めずに挑戦したことで、チャレンジ賞の賞状がもらえるし、オセロに勝つこつも、名人から直接やさしく教えてもらえるのである。
 オセロの他に、将棋などの伝統的なゲームで名人との対極ができる日がある。独楽(こま)やお手玉などの伝統的なおもちゃで遊んだり、お店ごっこをしたり、木のボールのプールに体を沈めたりなど、いろいろな遊びに「おもちゃ学芸員」のスタッフが付き合ってくれる。電気仕掛けのおもちゃはなく、身体を使ってその楽しさを脳に咲かせるような素朴な遊びに、子どもたちが夢中になっていた。

おもちゃで遊べる部屋

おもちゃで遊べる部屋

数学のつもりになりて考へしに五目ならべに勝ちにけるかも 斎藤茂吉

 遊びでしていたに違いない五目ならべに勝った、という実にたわいないことをただシンプルに語っただけだが、茂吉の代表歌の一つでもある。「数学のつもりになりて考へしに」と、適当に指していたのではなく真剣に考えていたのだ、と主張している。真剣なまなざしで五目ならべの盤を見つめる茂吉の横顔が見えるようで、臨場感がある。真剣な思いを実直に描けば詩に通じる、ということの見本のようだ。

オセロ対戦中

オセロ対戦中

 私はオセロで一首詠んだことがある。

盲人用オセロの石のうずまきと指紋がふれる歌舞伎町かな 東直子

 視覚障害者用のオセロは、片方の石に渦巻き状の溝があり、指先で確認ができるようになっている。歌舞伎町の片隅にあったオセロサロンで、彼らの試合を見守ったことがある。頭の中で局面を描きながらじっくりと時間をかけた試合運びは、感動的だった。

母と娘のあやとり続くを見てをりぬ「川」から「川」へめぐるやさしさ 俵万智

 あやとりをしていると自然に心がほぐれる。指先でする遊びは、胸の内に溜(た)まって窮屈に感じている魂を、ときおり外気に当ててあげるようなものなのかもしれない。
(歌人・作家)

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