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言ノ葉ノ箱
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再生アパートに歌を

2017/6/28

 福岡市中心部の川沿いの一角に、冷泉荘と呼ばれる場所がある。昭和30年代に住居用に建てられたアパートだが、2000年代に入ってからリノベーションされ、現在はさまざまな店舗として利用されている。かつて誰かが寝食を共にした部屋で、ヨガや韓国語や博多人形の教室が開かれていたり、オーダーメード革靴を注文したり、手作りのベーグルを食べたりしているのである。

冷泉荘の外観

冷泉荘の外観

 さらに、1階にある多目的スペースを使ってイベントを開くこともできる。ここで、詩と文学の祭典「福岡ポエイチ」が毎年開かれている。第6回目にあたる今年の6月10日(土)と11日(日)は、私も参加した。当日は詩歌関連の同人誌やグッズ等の展示即売をするブースが並び、朝からたくさんの来場者でにぎわっていた。
 今年は福岡在住の歌人、竹中優子さんが中心となって短歌のイベントがいくつか催された。その一つが、短歌の現地制作。来場者にはその場で作った歌を清記してもらい、七夕の、願いごとを書く短冊のように部屋に吊(つる)していた。私も五首作って手書きし、吊してもらった。例えば、こんな一首。

ひとへやに花を散らして歌に留めさよならいつか、いつかさよなら

短冊に書いた自作5首

短冊に書いた自作5首

 短歌を清書する部屋は畳敷きで、大きな机に寄り集まって参加者が作業する様子は、かつてこの建物の中で暮らしていた人々の姿を彷彿(ほうふつ)させた。一首には、今目の前で歌をつくって心をつなぎ留めている人と、かつて生活していた人の心を重ね合わせたのだ。
 何年も一緒に暮らしてきた人も、今仲良くしている人も、いつか会えなくなってしまう日がやってくる。心を重ねて言葉を交わしあうことと、花が咲いて散っていくこととは、なんだか似ているような気がする。集まった歌の中から10首選び、短冊を読み上げながら講評した。
 その他に、会場を移動しての歌会や、朗読、トークショー等に参加し、2日間の福岡滞在中は、どっぷりと詩歌に浸ったのだった。
 アパート4階のとある一室は、当時の再現部屋になっている。焦げ茶色の柱、襖(ふすま)、押し入れ、黒電話。私も子どものころはこんなアパートに住んでいたので、懐かしさでいっぱいになる。部屋の机の上には、昨年の福岡ポエイチのゲスト谷川俊太郎さんがここで創作されたという「Re:name」という詩が、机に向かっている写真とともに展示されていた。

掃き出し窓

掃き出し窓

 道に面した壁に、猫が通り抜けできるくらいの小さな窓があり、風通し用なのかと思ったら、ゴミを捨てるための掃き出し口なのだそうだ。ほうきでゴミを集め、そのまま道へ掃き出したという、今では考えられない、大胆なゴミ捨て方法である。そんな事実を教えてくれたのは、冷泉荘の管理人、サンダー杉山さん。アーティストの集まる建物を象徴するようなカラフルな服装で、たくさんの鍵を携えて建物全体を案内してくれた。
 屋上では、プランターやペットボトルで稲が育てられていた。それぞれがやりたいことをやりながら新しい命が育っていく空間。古い建物ならではの包容力を実感したのだった。
                 (歌人・作家)

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