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言ノ葉ノ箱
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徳島の海と椅子とレンガ

2017/7/28

 7月のはじめに、徳島県歌人クラブの夏の大会のゲストとして招かれ、久しぶりに徳島を訪ねた。
 かつて私の所属する歌誌「かばん」のメンバーで、17年前に徳島で短歌合宿をしたことがある。徳島出身の歌人、入谷(いりたに)いずみさんに案内してもらって、県の南、高知県に隣接する宍喰(ししくい)海岸(海陽町)の宿に泊まって皆で歌を作り、何度も歌会をした。私はこのとき2泊3日で30首ほど作ったのだが、翌年出版した歌集「青卵(せいらん)」に徳島での歌を収載した。

こすれあうものみな白し谷の抱く海にしずかに足さしいれる

あなうらに海の内臓たしかめる意志あるごとき月にてらされ

 皆で泊まったペンションにはプライベートビーチがあり、目の前に穏やかな内海があったため、夜の海にも入ることができた。青白く光る夏の月に導かれるように暗い海に足を差し入れていくのは、少し怖くて、少しときめいたのを覚えている。目で見ることができない海の底は、足の裏の感触で確かめるしかない。不思議な海藻を足でつまんで持ち上げたりなどしていて、海の底とは、海の内臓なのだと思った。 

宍喰海岸の内海

宍喰海岸の内海

 この海を、再訪した。ペンションのオーナーは代替わりしていたが、あの頃と同じ穏やかな内海がたゆたっている。
 浜辺にはヤマモモの木が一本立っていて、表面がつぶつぶの紅(あか)い実がたわわに実っていた。手をのばしてつまみ、口に入れると甘酸っぱくてとてもおいしかった。ヤマモモは県の木に指定されているように、徳島の名産品でもあるのだが、実がやわらかすぎて輸送するのが難しいため、加工品以外は流通することはほとんどないらしい。私もこのとき初めて生のヤマモモの実を口にしたのだった。
 とてもおいしいので、東京でも食べられたら、とも思うが、現地でなければ決して味わえないおいしさがある、ということのかけがえのなさもいいものだな、と思う。 

ヤマモモの木

ヤマモモの木

 さて、宍喰海岸と徳島市の間にある阿南市に、「日本のガウディ建築」と称される建物がある。「大菩薩(ぼさつ)峠」という名の喫茶店なのだが、オーナーの島利喜太さんが自らレンガをこつこつ積み上げて建てたのだという。蔦(つた)がからまり、長年使われていない廃虚の様相すら呈している。何十年も島さんがレンガを積んでいるが、ガウディのサグラダ・ファミリア(スペイン)と同じく、まだ建設中である。

喫茶店「大菩薩峠」

喫茶店「大菩薩峠」

 島さんと入谷さんは、実は親戚である。建物だけでなく、店に設置してある椅子やテーブルも島さんの手作り。一昨年には、47都道府県の形を椅子の背にした、特殊な木製の椅子を集めた私家版の写真集も作っている。
 17年前の合宿のときにも立ち寄り、制作途中の家具などを見せてもらった。そのときに見た、背の部分に梵字(ぼんじ)を掘り抜いた椅子が深く印象に残り、次の歌を作ったのだった。

椅子の背のもように風がしみてゆく海をうつせばつめたきまぶた

 この歌を、「青卵」の冒頭の歌とした。
                 (歌人・作家)

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