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路地裏の噺
東京・神田のオフィスビルが立ち並ぶ大通りから少し奥に入った通りに、「連雀亭」と呼ばれる二ツ目の落語家・講談師専用の小さな寄席がある。客席40席ほどのこぢんまりした空間。高座がとても近く、噺(はなし)がすすみ熱が入ってくると、落語家さんの顔が上気し、汗ばんでくる様子がよく見える。
毎日正午前後、午後、夕方と3回、メンバーを違えた公演がある。木戸銭も500円から千円と格安で、古典から現代を舞台にした新作まで、若手落語家の練習台的な雰囲気もあり、噺を聞きに行く方も気軽に参加できる雰囲気がある。
2014年の秋に始まった寄席で、ちょうど3年目を迎えたところである。高座の木製の台にデザインされた雀(すずめ)の絵がかわいらしい。
9月の終わりに行った寄席では、柳家緑君(ろっくん)さんが「頭山」を演じていた。ケチで有名な男が、落ちていたサクランボをもったいないので種ごと飲み込んだら、頭に桜が生えてきて桜が咲き、みながそこで花見をする、という奇想天外な噺である。現実にはありえない話なのに、噺家のテンポのよい語り口にのせられて、頭の上の花見の世界にぐいぐい引きつけられていった。
こういった物語は、「こんなことになるから、さくらんぼは種まで食べてはいけませんよ」という教訓を伝えるためにあるわけではない。物語が語られている間は、ただただその世界を楽しむためにある。たとえその話のオチを知っていても、何度も聞いたことのある話であっても、おもしろければ何度でも聞きたくなる。
語り手が落語家という生身の人間であるからこそ、同じ噺でも語るたびに微差があり、その生身の変化の妙を味わうことが、癖になるのだろう。
言葉の世界では、どんな場所にも行けるし、人生を何度も繰り返すこともできる。人が肩を寄せ合う空間に、言葉だけで表現された、とんでもなく広がる世界が今日も存在すると思うと、それだけで胸があたたかくなる。
古今亭志ん朝の死を新聞は告げ秋冷の便器の白さ
藤原龍一郎
2001年に亡くなった3代目古今亭志ん朝のことを詠んでいる。繰り返される噺には永遠性がある。なので、その語り手がこの世から突然消えてしまうということは、信じていたものが断ち切られたような不条理な淋(さび)しさを味わう気がする。
語り継がれた噺は、別の人の口を通じて語られることはあると思うが、同じ内容でも違う人が語れば別物である。その人の肉体を通じてしか味わうことのできない世界が、確かにある。その悲しみが全身を満たすとき、毎日必ず目にする日常の代名詞でもあるような便器が、妙に白々しく見えたのだろう。
連雀亭の近隣には、戦前からある建物を利用した老舗が軒を並べている。あんこう鍋、鳥のすき焼き、あんみつ屋。人間の業のおかしみを人間の声で聞いたあとに、昔ながらの料理を口にする。秋には特に、それが似合う。
言の葉をもてあそびたる罰なるや夢みる頃を過ぎてまた夢
同
(歌人・作家)
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