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言ノ葉ノ箱
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カルデラの中の街

2018/2/28

 熊本県にある阿蘇山を訪ねた。この山には、世界でも最大級のカルデラがあり、その中に5万人もの人が住んでいる。子どものころ、家族で遊びに行ったことがあるのだが、馬のいる草原(草千里)に行っただけだったので、こんなにたくさんの人が住んでいるとは気付いておらず、改めてその事実を知って驚いた。
 今回、阿蘇に住む知人にいろいろな場所に案内してもらったのだが、太い道路に沿ってコンビニエンスストアやチェーン店などが並び、一見、どこにでもありそうな郊外の風景に見える。ただ、360度どこを見渡しても山の壁があり、他の街とは圧倒的に違う。世界には他にも広いカルデラが存在するが、こんなにもたくさん人が住み、街が発達しているカルデラは、他にないのではないだろうか。
 標高が高いため、冬はかなり冷え込み、雪も積もるという。しかし私が訪ねた日は、よく晴れて、あたたかな日が差していた。積もった雪が解けたのか、草千里の草はしっとりと濡(ぬ)れていて、歩くとやわらかく沈んだ。草地の上の浅い湖は凍っていて、夕陽をつめたく照り返していた。夏には草地にいるはずの馬は一頭もおらず、馬に乗り込むための木製の台だけが並んでいた。

夏のかぜ山よりきたり三百の牧(まき)のわか馬耳吹かれけり
                   与謝野晶子

 夏になればこのような風景が広がるのかと想像しながら、らくだ色の草地を眺めた。

草千里

草千里

耳の奥にもこの草原が続いているそう思いつつゆく草千里
                    竹中優子

迷いつつ火はやま肌をひろがってやけあとに春ためこんで行く
                    河合弘枝
 
 今回同行した2人の歌人の作品である。1首目は、草地のイメージを耳から体内に広げ、身体感覚的なファンタジーとして新鮮に捉えた。2首目の歌は、阿蘇山の野焼きを擬人化し、ユニークに表現している。夕暮れ、草地を焼く火が大きさや形を変えながら、ゆっくりと焼け野原を広げていくさまを私も見た。春になれば、黒く焼けた土から新しい芽が伸び、やがて青々とした草地へと変化するのだ。

水基

水基

 翌日は、阿蘇神社をお参りし、神社に続く水基巡りの道を歩いた。「水基」とは、水飲み場のことである。カルデラに湧くきれいな水を、点々と設置されている水基で飲むことができる。水基には、「さるびこだいじん」「的場の泉」など、一つ一つ名前がついている。雪解け水で水量が増えたのか、勢いよく噴き出した水が、冬の光をきらきらと反射していた。

カルデラにゆきどけ水のあふれ出て傷つきし地に光とどめる
                    東 直子

 2016年春の熊本地震によって、阿蘇神社は主要な建造物が壊れ、再建中だった。水基巡りの水の流れも地震後に変わったという。水は、大地の傷を癒やすように光を連れて巡っている気がしてならない。

JR阿蘇駅

JR阿蘇駅

 カルデラを横断するJR豊肥本線は、熊本へ向かう側の被災したあたりが不通となったままだった。魅力的な鉄道なので、一日も早い復旧を願う。
                 (歌人・作家)

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