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植物たちの楽園
東京都文京区にある、小石川植物園を訪ねた。この植物園は、東京大学の研究機関に付属していて、江戸時代の徳川幕府によって設けられた「小石川御薬園」という日本最古の植物園がもとになっている。傾斜地や泉水地を含む広大な敷地に、多様な植物が自生に近い形で植えられている。
私が訪ねた9月下旬は、草地に赤い彼岸花が群れ咲いていた。夏の名残を感じさせる、やや強い日差しに鮮やかに照り映えて美しかった。
ひとりずつ名前を呼ばれ消えゆくか万の彼岸花畦(あぜ)に手をふる
長谷川径子
彼岸花あかく此岸に咲きゆくを風とは日々のほそき橋梁
内山晶太
「彼岸」とは、あの世のこと。あの世に咲く花、という印象をその名が誘うので、この言葉を使った歌には、どこかはかなく消えていくような印象が醸し出される。
この花は「曼珠沙華(まんじゅしゃげ)」とも書かれる。
曼珠沙華一むら燃えて秋陽つよしそこ過ぎてゐるしづかなる徑(みち)
木下利玄
いたみもて世界の外に佇(た)つわれと紅き逆睫毛(さかまつげ)の曼珠沙華
恂{邦雄
語感や華麗な漢字の印象からなのか、「曼珠沙華」という表記による歌の方が、主張の強い、鮮やかな歌となっている点が興味深い。燃えるようなあの赤い色や、「逆睫毛」になぞらえられるような固有の形には、強い生命力を感じる。
赤々と彼岸花が咲く園内には小さな売店があり、年配の夫婦が店を切り盛りしていた。お土産の限定販売品の飴(あめ)は、かりんや梅、銀杏(ぎんなん)など、植物園内で採れた実を使って作られているそうだ。植物が思う存分枝葉を伸ばしている空間で、そのおこぼれのような実を使った食べ物をひっそりと売っていることが感慨深くて歌に詠んだ。
彼岸花が血潮のように咲いている植物園の売店に飴
東 直子
この売店に、鴉(からす)がひょい、と現れた。物欲しそうに店の中をゆっくり歩き、厨房(ちゅうぼう)の方を覗(のぞ)いたりしている。店の人は、「ずいぶん人なつこい鴉だね」「こんなの初めてだよ」「これは、子どもの鴉だね」などと話している。そんな会話が分かっているかどうか、猫がやってきてじっと見つめても、子鴉(多分)は、警戒することなく佇(たたず)み続けた。
植物の園では、動物も無駄な争いはせず、おっとりと生きていくのかもしれない。園内には「メンデルのブドウ」と「ニュートンのリンゴ」が植えられている。遺伝子と重力の法則という重大な発見のきっかけを与えたのが、人間の営みのすぐそばにある、親しみ深い植物だったということに今更ながら気付き、しみじみした気持ちになったのだった。
(歌人・作家)
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