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本の祭典
毎年秋になると、東京・神田神保町の靖国通りに屋台が並ぶ。神田古本まつりである。古本がぎっしりつまった屋台を出しているのは、通り沿いに並ぶ古書店である。
神田の古書店は、店舗ごとに専門としている分野が異なる。道に並べられた本も、各店舗の特徴がよく分かる形で、美術書や哲学書、鉄道関係の写真集など、多種多様である。
期間中の最初の土曜日の午前中に訪ねたのだが、中秋のやわらかい日差しの下に、お祭りを示す赤と白のちょうちんが吊(つ)るされ、その下に吸い寄せられるように本好きの人々が集まり、とても賑(にぎ)やかである。
また、同じ神保町内の別の通りでは、新刊書店や出版社などが本を積み上げたワゴンをぎっしりと並べている。整列して順番待ちをしている所もある。さらに少し離れた場所では、児童書を集めた「こどものひろば」も開催されていて、読み聞かせや、紙すき体験に取り組む子どももいた。
今月「そらのかんちゃん、ちていのコロちゃん」(福音館書店/絵・及川賢治)という児童書を出版したこともあり、子どもたちの後ろから、ワゴンをのぞいた。昔読んだことのある本を確認してわくわくしてしまい、何冊か購入した。
活字離れが進んでいると言われているが、どの場所でも真剣に本を選ぶ人たちの熱気にあふれていて、たのもしい心地になった。
パソコンやスマートフォンなど、電子機器を通じて文章を読む機会がとても多い時代だが、機械の言葉は、電源が切れてしまえば読むことができない。しかし、本に電気はいらない。ページを開くだけで、本の中の世界へ入っていける。さらに持ち運びができて、貸し借り等の受け渡しが容易にできる。無人島にだって持っていける。
古書市にて求めし『赤光』曝書(ばくしょ)すればわれより先に風が読むべし
辻下淑子
「曝書」とは、書物を虫干しすることで、ここでは古書市で買った斎藤茂吉の第一歌集「赤光(しゃっこう)」を、陽光の下に開いてさらした場面だろう。風がめくれば、紙が含んでいた湿気も放たれ、気持ちのよい本になっていく。そんな心地が下の句に表現されている。
みなし児に似たるこころは立ちのぼる白雲に入りて帰らんとせず
斎藤茂吉
「赤光」の中の一首。こんな淋(さび)しさの沁(し)みる歌を風が読んだら、歌のまわりに浮遊する魂を連れて、白雲の中へと誘ってくれるかもしれない。
本のお祭りで賑わう通りからふと入った細い道はしんと静かで、懐かしい路地の風景が続いていた。レトロな雰囲気の喫茶店が軒を連ねる。
ここにある「ラドリオ」という店は、日本で初めてウインナコーヒーを出した店だそうだ。古書店で購入した一冊をここでいそいそと取りだし、生クリームたっぷりのコーヒーを片手に読むのは、どんなに楽しいことだろう。
(歌人・作家)
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