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言ノ葉ノ箱
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神話のなごり

2019/2/27

 「古事記」に描かれている神話の舞台、宮崎県を訪ねた。海幸彦と山幸彦に関する出生の逸話や兄弟間の攻防、その子孫につながる壮大なエピソードなどと結びつく場所が今も残っている。

青島とトゥクトゥク

青島とトゥクトゥク

 同行したのは、小説家の三浦しをんさん、歌人の小島なおさんと平岡直子さん、俳人の神野紗希さん。宮崎で行われている「神話のふるさと県民大学」のイベントの一つとして、ゆかりの地を訪ねて短歌を作り、歌会をしたのである。
 太平洋に面した広い海に、ふさふさした緑の帽子をかぶったような青島(宮崎市)が浮かんでいる。南の海から流れ着いた檳榔(びんろう)樹(ヤシの一種)が自生しているのだそうだ。この、異国情緒漂う青島を訪ねた歌人や俳人が作品を残している。

若山牧水の歌碑

若山牧水の歌碑

檳榔樹の古樹(ふるき)を想へその葉陰(はかげ)海見て石に似る男をも
                    若山牧水

 若山牧水は、宮崎で生まれ育った。「海見て石に似る男」は、海を見ながら呆然(ぼうぜん)としている自分自身のことを客観的に詠み、鬱屈(うっくつ)した気分を投影したのだろう。
 島の中に青島神社があり、山幸彦とトヨタマヒメが祀(まつ)られている。トヨタマヒメは海の神ワタツミの娘で、山幸彦とは海中の御殿ワタツミの宮で結婚したとされている。
 宮崎市より南の日南市にある鵜戸(うど)神宮には、トヨタマヒメの残した「お乳岩(ちちいわ)」と呼ばれる岩がある。トヨタマヒメが、山幸彦との間の子を出産したとき、自分が鮫(さめ)であることを山幸彦に知られてしまい、海に帰ることを決意する。そのとき、残された子どものために乳房をちぎって岩にはりつけて残していったという。岩からしたたる乳を飲んで赤ん坊が成長する。なんと大胆なお姫様だろう。
 生まれた子の名前は、ウガヤフキアエズ。産屋を鵜の羽で作ってほしいとトヨタマヒメに言われ、山幸彦が大慌てで建てたのだが、屋根までは完成しなかった。その逸話からからこの名がつけられた。

鵜戸神宮

鵜戸神宮

 境内には、岩から染み出した透明な水を集めた水飲み場があり、口にすることができる。私も一口含んでみた。こころなしか、やさしい甘みを感じる。
 やわらかい鵜の羽と鮫の肌のしめり。生まれたばかりの子ども。引きちぎられた乳房と、岩から滴る乳。気掛かりなまま海に戻っていく鮫。陸に残された父親の狼狽(ろうばい)。
 一つ一つの場面を思い浮かべると、ドラマチックで生々しくて、艶っぽくて、切ない。独特の存在感を放つ勇ましい姫たちの魅力を女性5人で存分に語り合いながら、春に向かうたくさんの光の中を歩いた。
 海幸彦と山幸彦は、燃えさかる火の中、コノハナサクヤヒメから生まれた3兄弟の中の長男、三男である。3人は生まれたときの火の様子を反映して、火照り(ホデリ)、火須勢理(ホスセリ)、火遠理(ホオリ)というきれいな響きの名を最初に与えられている。そのことも、歌に詠み込んだ。

岩の乳ほのかに甘くしみとおる見せてはならぬ身体の火照り
                     東直子
                 (歌人・作家)

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