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言ノ葉ノ箱
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惑星から惑星へ

2019/3/30

 はやぶさは鳥の名前だが、2010年からは、宇宙を思い出す言葉にもなった。小惑星探査機の「はやぶさ」が、はるかな宇宙に飛び立ち、小惑星イトカワのサンプルを採取して戻ってきたのが10年の6月だからである。
 一度通信が途絶えたものの奇跡的に復活し、さまざまな機器のトラブルを抱えて満身創痍(そうい)で、60億キロメートルの旅から7年間あまりの歳月をかけて戻ったことが人々の心を打ち、大きな話題となった。地球重力圏外からサンプルを採取して戻ってきたのは、世界で初めての快挙、とのこと。「はやぶさ」を擬人化して思い入れを抱く人も多かった。
 現在、「はやぶさ2」が、14年12月に地球を飛び立ち、新たな目標地点となった小惑星リュウグウに到達し、先月、1回目の着陸に成功している。

「はやぶさ」の映画を上映したプラネタリウム

「はやぶさ」の映画を上映したプラネタリウム

 なぜ急に、探査機の「はやぶさ」について詳しく書いているかと言うと、東京都足立区にあるプラネタリウムで「はやぶさ」の映画を観(み)たからなのである。約50分のその映画のタイトルは「HAYABUSA Back To The Earth」。CGによって「はやぶさ」の宇宙の旅を再現したもので、篠田三郎さんのナレーションと音楽と効果音のみのシンプルな構成の映画なのだが、随所で感情移入してしまい、涙が出そうになる。視界のすべてが宇宙空間になるプラネタリウムという空間が、集中させてくれたということもあるだろう。

館内に展示されている惑星の模型

館内に展示されている惑星の模型

 人間が作った機械が、夜空に瞬く遠い遠い星に辿(たど)り着き、そして戻ってきた、という事実を胸に抱いて生きていけるのは、静かな励ましになる気がしている。

宇宙とふ無音の量(かさ)を思ふときわれ在ることの<声>のごとしも 
                    大塚寅彦

 宇宙の無限のひろがりを「無音の量」というフレーズで端的にまとめ、それに対する自分の存在を「声」だとする感覚が新鮮である。日頃なにげなく発している「声」も、宇宙に対峙(たいじ)する存在として捉えれば、とてつもなく深い。「はやぶさ」の旅の圧倒的な孤独感とも響き合う。

ボルダリングをする子どもたち

ボルダリングをする子どもたち

 地球にやっと辿り着いた「はやぶさ」は、小惑星のサンプルを入れたカプセルを切り離し、大気圏で流星のように光を散らしながら燃え尽きていく。運命づけられていることとはいえ、悲しい。最後に「はやぶさ」が残した、モノクロのノイズ入りの地球の写真は、この星を大切にしてください、という願いのこもった辞世の作品のようだと思った。
 プラネタリウムのあるギャラクシティという建物には、子どもがさまざまな体験をできる施設が備わっていて、春休みの親子でにぎわっている。入り口付近にボルダリングの施設があり、ヘルメットをかぶった小学生が果敢に挑戦していた。壁に張り付いたカラフルな石をぎゅっと握って登って行く姿を見守りながら、その石が、惑星の欠片(かけら)に見えてきてしかたがなかった。
                 (歌人・作家)

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